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  • 2024.05
第四話 『Beginner』

 其の風体は特殊極まりないものだった。
 アンダースーツは体のラインがハッキリと解る程にフィットしており、服や靴の上から着ていない事が一目瞭然だ。かと言って喉仏や臍やムスコ、尻の割れ目などの肉体の凹凸は外見からは全く無くなっており、尻に至っては存在自体の影が大分薄くなっている。まるでウェットスーツの様だ。
 そして中肉中背で鍛練をしていない体は、筋肉の隆起が少ない。
 フルフェイスの頭部装甲には肉食獣と同様に配置されたクリスタル質で翠銅鉱を思わせる色合いの両眼、天を指す両耳、閉じてはいるが今にも相手に喰らい付きそうな細長い口吻を備えている。胸背装甲は何処と無くライダー用のプロテクターを思わせるが、胸と背を一体で防護し、戦闘に対応するために其れよりは覆う面積が広く、重要部分を守るパーツとしての威厳を持っていた。肩部装甲と膝部装甲は各々『肩当て』と『膝当て』で、前者は丸みを帯び、後者は角張っている。前腕装甲と下腿装甲は、のっぺりとしたシンプルな物で、該当箇所に則した形状で全周を覆う。手部装甲は指貫きグローブの形をしており、両足装甲に至ってはリーボックのランニング・シューズの如く足を包み込んでいたが、足首との境目は解らない程に滑らかだ。
 腰のベルトのバックルは、扇形の両斜線に各々等脚台形が底辺で接続された感じである。バックルの中心には真紅に染められた水晶玉が納まっているが、其の内部には『エッジの効いた明神鳥居』の様な紋様が浮かび上がっていた。バックルの両端からは銀色のバンドが伸び、腰の真後ろで一つに合わさっている。
 「・・・・・・」
 赤城は言葉が無かった。只々、眼が届く範囲で己を観察し、見下ろした両手を閉じたり開いたり、右足の爪先を床に押し付けて曲げたりしている。手と足の装甲は、其の本分と柔軟性を両立している様だ。
 「・・・・・・んぅ?」
 赤城如きに、今の自分に起きている事が飲み込める筈も無い。何と無く背中を見ようと体を捻った時、痺れを切らした怪物が仕掛けた。
 「ギュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
 今までの鬱憤を晴らすべく突進し、怪物は三本指の簡素な拳を赤城の横っ面に振り下ろした。完全に相手を忘れていた赤城は反応出来ず、マトモに喰らってしまった。
 「ぼっ!?」
 猛烈な勢いで吹っ飛ばされた赤城は壁に叩きつけられた。間髪入れずに怪物は間合いを詰めると、赤城の頭を掴んで後ろに振り返る勢いと共に床に投げ付ける。
 仰向けで呻く赤城を、怪物は右足で何度も力の限りに踏み付ける。大地を抉る、太くて湾曲した爪が赤城を捉える度、胸背装甲からはテレビで良く見る代物に近しい白い火花が散っていた。攻撃の衝撃で肺から空気が押し出され、『ごっ』や『ぼっ』等の言葉が赤城の口から勝手に出てくる状況だ。
 「ギュュュュュッ!!!!!」
 怪物が一層右脚に力を込め、赤城の胸を打ち抜かん勢いで爪が迫ってくる。
 「んぎっ!」
 高速で転がって赤城は紙一重で爪を回避した。怪物の一撃は駅の床を軽く貫き、其処が陥没してしまっている。
 「ギュギャ!?」
 怪物は足が嵌まってしまった。其の隙に赤城は立ち上がって距離を取り、胸を確認する。
 「おぉ・・・・・・」
 胸背装甲に傷は微塵も無かった。あれだけ攻撃されて火花も散ったというのに、新品そのものである。もしかすると、此の場面を突破出来るかもしれない。
 赤城に反撃の意思が芽生えた。
 「っしゃ!」
 赤城が怪物に向かって駆け出し、跳び掛かると其の顔面に2.3tにも達するパンチを『ドガン!』と叩き込んだ。
 「ッギャァ・・・・・・!」
 怪物は忌々しく赤城を睨みつけ、鬱陶しそうに腕を何度も唸らせて振り降ろす。
 「ぃよ! ほろ! へぃ! なっし! なっは!」
 珍妙な掛け声で赤城は全ての攻撃を避けながらパンチを、時には2.8tものキックを頭問わず体に我武者羅に当てていく。身のこなしは軽やかで、反射神経も普段の赤城からは想像も出来ない程に研ぎ澄まされている。
 「どしたどしたぁ!」
 攻撃を避けながらも自らの攻撃が当たるという事で、赤城はハイになっていた。頭部装甲の下の顔は笑ってすらいる。
 「ギュゥゥゥゥゥ・・・・・・」
 不意に怪物が攻撃を止め、俯いてしまった。
 「あり?」
 連れて赤城も動きを止める。
 「バァァァァァ!!!!!」
 バッと顔を挙げた怪物は、青紫色をした火炎を吐き出した。咄嗟に赤城は両腕をクロスさせて防ぐも、火炎の猛烈な勢いにジリジリと押されていく。
 「おぉぉぉぉぉ!」
 火炎を受け止めている前腕からは火花が激しく散っているが、其れの色は自らの装甲の基調と同じ真紅であった。相手の予想外の攻撃で細まった赤城の眼でも、確りと認識出来る。
 「ぐひゃっ!」
 前腕付近で爆発が起き、赤城の体が宙に浮いた。大した爆発ではなかったため、体勢を崩す事は無かった。
 「っぅ・・・・・・!」
 感覚的に火傷等の損傷や痛みは無い。しかし火炎を受けた前腕装甲からはプスプスと煙が立ち上っている。僅かだが溶けており、亀裂も多少走っていた。此れは明らかにダメージを受けている。
 直前までのハイが嘘の様に萎えた。
 「ギュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
 「!?」
 遂に足が抜けた怪物はコリを解すかの様に一通り全身を動かし、雄叫びを上げて攻勢に転じた。二対の腕を器用に振り回して肉弾戦を仕掛け、赤城はバックステップを駆使して少しでも距離を取ろうとする。しかし踏み込みの強さは相手が勝っており、簡単に詰められて中々の打撃を数発浴びてしまう。どうにか離れられても、火炎で追撃を掛けられる有り様だ。火炎は直撃こそしなかったものの、付随する熱波が小規模な真紅の火花を生じさせる。
  間も無く壁際に追い詰められた赤城は焦りに呑まれていた。足元で怪物が壊した店の瓦礫がガチャガチャと音を立てている。
 心なしか、怪物に余裕が見える。澱んだ複眼に赤城は『容易く捻り潰せる獲物』とでも映っているのかもしれない。
 追い詰めた方の怪物はゴールキーパーの様に二対の腕を横に広げると、静かに顎を開いて炎の放射準備に入った。奥に灯っている炎が顎外に漏れだし、徐々に勢いを増していく。
 赤城の視点は見える範囲を隈無く巡り、脳は目紛るしく回転していた。様々な案が浮かんでは活路を見い出そうとするが、即座に成功率が弾き出されて却下される。丸腰では無理だ。
 「(どうするっ? どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするっ・・・・・・!)」
 既に脳内はアラートで埋め尽くされている。赤城は漠然と、遠くの方から『詰みだ』と言い渡された気がした。
 無意識に左脚が下がり、左肩が壁に付く。右脚が続こうとして、瓦礫の上を過ぎる。其の時だ。
 キンと、足元から金属音が赤城の耳に届いた。
 徐に目線を下げると、右足の爪先にパイプが一文字で僅かに乗っている。店の四隅に立って屋根を支えていた内の一つだろう。
 「ヴゥゥゥゥゥ!!!!!」
 「るぁ!」
 怪物が炎を蓄えきって正に吐かんとするのと同じタイミングで、赤城は素早く爪先でパイプを拾い上げ、怪物の顎を目掛けて槍の要領で突き刺した。
 刹那の間の後、怪物の炎が暴発した。
 暴発の衝撃で怪物はよろよろと後退し、顔を押さえて苦悶している。喉をヤられたのだろう、咆哮は虎落笛(もがりぶえ)と化して最早意思を伝える事は出来ない。
 多少短くなったパイプをグッと握り直し、赤城は未だ立ち直れていない怪物に向かって構えた。
 「ぅぅぅぅぅあっ!」
 赤城は真上へ思いっきりに跳んだ。気付いた怪物が左の複眼を押さえたまま顔を赤城に向けた時、彼は天井に激突するギリギリで反転し、クイックターンの要領で天井を蹴って怪物の右の複眼に深々とパイプを突き刺した。
 「ッッッッッ!!!!!」
 怪物は新たな痛撃に激しく興奮し、余りの勢いに赤城は振り落とされてしまった。
 そして怪物は右往左往の末に、急に全ての腕をだらんと垂らしたかと思うと、ゆっくりと後ろに倒れて動かなくなってしまった。
 肩で息をしながら瓦礫の上に尻餅をつき、事の顛末を見守っていた赤城だったが、恐る恐る立ち上がると怪物に近づいていった。相手の生死を確かめる必要を感じたからである。
 顎を中心とした顔の下半分は吹き飛び、押さえていた複眼は焼け爛れていた。パイプが刺さっている複眼からはカーキ色の液体が流れ出している。頭部装甲のせいか、臭いは解らなかった。想像ではあるが、気分の良い臭いではない事は確かだろう。
 怪物の頭から爪先までを眺めると、改めて相手の巨大さを実感する。よくぞ立ち向かえたものだと、今になって冷や汗が溢れ出す。
 「二メートル・・・・・・三十・・・・・・五?」
 率直に思った身長を口にしてみる。自分が百七十五センチ五ミリだから、五十センチ以上も差がある。
 「・・・・・・死んだな」
 頭を軽く爪先で小突き、そう結論付ける。正確には手足が断続的に小規模に痙攣しているが、仮に生きていても正に『虫の息』である。驚異は然程無い。
 「・・・・・・コイツは、何なんだぁ?」
 腕を組み、相手を見下ろしながら赤城が言った。突然の遭遇からの決死の逃走、更に無我夢中の一戦を終えて漸く湧いた、当然の疑問だった。
 バッタを多分に思わせる様相の巨躯で、しっかりとした二足歩行をする。人間の様に物を掴んで殴れる手を持ち、最終的には炎を吐き散らす。ウィキペディアの『UMA』のページですら見掛けた覚えが無い。幾ら赤城の脳とて、此れ程のインパクトの生物を失念するとは考えにくかった。
 右手を“下顎”に当て、赤城は暫し思考を巡らす。そして思い付いた仮説は、赤城にとって実に現実味の有るもの。
 「魔女の・・・・・・使い魔?」
 とても納得出来る。寧ろ魔女が従えるにはピッタリなビジュアルの生物である。赤城は『うん、うん』と頷き、納得の度合いを深めていく。
 「とんっでもない奴だな、くわばらくわばら・・・・・・」
 こんな生物を複数匹、しかも微笑みながら従える魔女の姿を想像して、赤城は少し引いた。
 「其れは違うわ」
 俊敏に赤城は振り向いた。
 無音の空間を伴い、あの時と変わらぬ微笑みを湛えて、魔女が涼しげに立っていた。
 「其の生き物は此の世界の固有種。私とは一切関係ないわ」
 相変わらずの声量と表情で魔女が告げた。
 「やっと遊べる様になったのね。おめでとう、存分に堪能しましょう」
 振り向いたまま固まっている赤城。対する魔女は破顔一笑だ。余程赤城が遊べる様になった事が嬉しいらしい。
 「あ、遊ぶ・・・・・・とはっ」
 暫しフリーズしていた赤城が絞り出した言葉に、魔女は笑んだまま少しだけ『解らない』という表情をした。頭部装甲の下で硬直していた口が溢れる衝動で抉じ開けられ、言葉が飛び出していった。
 「どういう意味ですかっ!? 此のバッタはっ!? 今一体何がっ!? おっ、自分はどうしてっ!? 貴女っ・・・・・・貴女はっ!?」
 突如として現れた魔女を前にして上がったボルテージのせいで、普段以上に思考が発言に追い付けず、赤城は自分が何を問うているのか解らなかった。問いも途中から断片的になって、言った後で自らの記憶の底に沈んでしまって簡単には思い出せない。疑問をぶつけられた魔女は落ち着いたもので、緩やかに表情を戻すと、右手の人差し指を立てた。
 「一つ目。“遊び”と言うのは、貴方が其処の生き物の息の根を止めた事」
 続けて中指を立てる。
 「二つ目。二回目になるけど、貴方の後ろに転がっている生き物は此の世界の固有種よ。此の世界に来て初めて知ったの」
 次は薬指だ。
 「三つ目。私が暴いた土地から、其処の生き物と同じ生き物が噴火したみたいに方々に飛び立っていったわ。あの生き物は人間を好むみたいだから、あちこちで此処と変わらない状況になっていると思うの」
 魔女の眼に仄かな輝きが灯る。魔女は立てていた指を一旦畳み、人差し指と親指でチップスを摘まむ形を作って赤城を指し、そのまま其れを開いた。すると赤城の眼の前の空間が、姿見の鏡の様に今の赤城を写し出した。
 「四つ目」
 姿見の向こうから魔女が言い、姿見に写った自分を赤城は見据えた。気分は大分落ち着いてはきていたが、其れでも『狐の頭を持った獣人型平成特撮ヒーロー』程度の解釈しか出来ない。けれども其の姿は、赤城の好みに合致していた。
 「そんな感じよ」
 ヒュっと姿見が消え、赤城の視界に魔女が戻った。
 「此の世界に来て直ぐ、面白い“力”を持っている人間・・・・・・。ううん、人間じゃないわ。良く似ている別種族ね。其の種族から私の『趣味』のために奪ったの」
 「しゅみ?」
 渇いた口で赤城が聞いた。
 「私の趣味は、偽物を造って集める事なの」
 魔女は視線を抱えていたヌイグルミに落として続ける。
 「複写した後のオリジナルを、此の仔と同じ形にした事に意味は無いわ。遊べるまでの貴方を守る事と、貴方へのメッセージは込めたけれど」
 言い終えた魔女は視線を赤城に戻し、反対に赤城は視線を胸背装甲越しに心臓に落として右手を当てた。掌に鼓動は伝わらないが、早鐘を打っている事は自身を形作っている肉が解っている。
 「そういえば貴方の中の“力”、私の手元に有った時と変わっているわ」
 「え?」
 赤城の顔がパッと魔女に向いた。
 「ふぅん・・・・・・。本来とは違う種族に入ったから、『初期化』と『突然変異』を起こしたみたいね。それと貴方の器は凄いわ、“力”を取り込んだのに“空き”が沢山残っている」
 魔女の言葉に関心のニュアンスが含まれた。
 「しかも、もう慣れているのね。次からは随分とスムーズよ』
 魔女がクスクスと笑う。何に対して笑うのか、赤城には理解が出来ない。暫し後に魔女が『そうそう』と付け加える。
 「貴方が握り締めて、私の込めた物が取り払われた時点で、“力”は貴方と合一(ごういつ)している。だから今後“力”が独断で貴方を守ったり、ましてやメッセージを伝える事は無いわ」
 補足を終えると魔女は手を下ろして、『ふぅ』と息を吐いた。些か疲れたのだろう、右腕を突き上げての大きな“伸び”をして体の凝りを取る。
 其の間の赤城はと言うと、魔女の行いを只々見ていた。何の思いもなく、昼下がりの雲を眺めるが如く、忘我(ぼうが)で魔女を見ていた。
 「私の気持ちを聞いてくれるかしら?」
 脈絡無く魔女が赤城に提案した。赤城は急激に現実に戻され、魔女は返答を待たずして語り始める。
 「今までの“遊び相手”は全て人間。人間は脆くて直ぐに死んでしまうから、私は満たされる事が無かったわ ・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「でも“彼”は違った。軽く試したに過ぎないけれど、“彼”には可能性を感じたわ。其処の生き物も簡単には壊れないから上出来。殴り飛ばされても、蹴り込まれても、刺し貫かれても、撃ち抜かれても、引き千切られても尚、私を喰らおうとするのよ? "もう一つの方”も期待出来そうだし、私はずっと望み求めていた“遊び相手”に出会えそうで、今とっても嬉しいの」
 両腕を広げて語る魔女が浮かべた無邪気な笑みは、既に多くを経験した自分は現状を心から楽しんでいる事を表し、赤城も自分と同様である事を微塵も疑ってはいない。赤城には其れが眩しく、同時に少し引く自分を感じた。
 「そして貴方にも出会えた事も。貴方は私の同志、良き隣人」
 「・・・・・・俺っ?」
 「えぇ。貴方も私と同じ“遊び”を望んでいたじゃない」
 「同っ・・・・・・。いやっ、違うっ」
 赤城が慌てて反論する。
 「したかったのは此れじゃないっ」
 聞いた魔女の表情が一瞬、ほんの僅かに曇った。
 「・・・・・・可笑しな人。貴方は“遊び”を望んでいた。だから私は貴方が遊べる様に、アレを渡したのよ?」
 「こ、こんな状況になる“遊び”なんて、したい訳がないですっ」
 「? 人間は『殺し』以外の“遊び”をするの?」
 「うぁっ? え、あ、ぐんっ、おっ?」
 魔女の言葉に赤城は一時混乱した。声帯の振動、舌の動き、口の形が一致しない故に、ちゃんとした発音が出来なくなっている。
 魔女は不思議そうに語る。
 「幾つもの世界を巡ってきたけれど、全ての世界で人間は用いる術を選ばずに殺し合っていたわ。武術、剣術、砲術、学術、秘術、仙術、妖術、魔術・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「後は洗脳、薬剤投与、改造手術、異種交配で品種改良・・・・・・倫理なんて欠片も無いでしょう? だから私は人間を『殺しを“遊び”とする生き物』だと思っていたけれど・・・・・・」
 魔女が動いた。
 「此処では、少し考察の必要があるみたいね・・・・・・」
 魔女は冷たく笑むと、其の眼に又もや灯りが灯った。右手がフィンガースナップに構えられる。
 何かをする。
 直感した赤城が反射的に魔女に駆け寄って手首を“掴んでしまった”。赤城の突拍子のない行動に、然しもの魔女も驚きを隠せなかった。
 「・・・・・・なぁに?」
 灯りが灯った眼に見詰められ、赤城の内腿からドッと汗が出る。反射的だったため、掴んだは良いが何の考えもないのである。しかし行動してしまった手前、何かしなければならない。
 すると此の期に及んで赤城の脳が、光の速さで記憶を底からサルベージした。魔女に問うた疑問の中で、答えられていない物が一つ有る。其の事を脳が赤城の意識に伝え、赤城は魔女に尋ねた。
 「あ、アンタはっ・・・・・・何なんだ?」

 ―――うふふ。

 「・・・・・・私は、ワ・タ・シ」
 乾いた破裂音が響く。魔女を飲み込んだ炎に焼かれ、赤城は全身から真紅の火花を散らしながら強く弾かれた。そのまま床に尾てい骨を強か(したたか)に打ち付ける。
 魔女が跡形も無く消え去ると、其処には煤けた床と、呆けた赤城が残された。暫くじっとしていた赤城だったが、やがて緩慢とした動作で胡座(あぐら)をかくと、床に向かってポツリと言った。
 「魔女だ・・・・・・」

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【2013/06/08 20:30 】 | 戦神稲荷 | 有り難いご意見(0)
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