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【2024/03/28 20:07 】 |
第壱章 『常世ノ成立』
 始まりは一九年前、アメリカのカリフォルニア州とネバダ州の堺に突如飛来した謎の隕石であった。
 
隕石は全長二〇〇メートルにも及ぶ規模にも関わらず、周辺の大地はおろか街にすら大きな被害を出さずに“着陸”したのだ。
 
後の調査で地面に触れる寸前にスピードが落ちていたという事実が判明したが、此の時点では誰も思いもしない。
 
そして事態は動き出す。大地に突き刺さっていた隕石が突如として破裂すると、中から常識を覆す巨大な怪物が現れたのだ。
 
直後に『巨獣』と呼ばれ、『ゴリアテ』と名付けられる此の怪物は、人間とティラノサウルスを足した様な姿で二足歩行をし、首根っこから尻尾の末端に掛けて、揺らめく蒼いプラズマ・ジェットの様な背鰭を幾つも備え、一三三メートルもの身長を有していた。
 
ゴリアテは肩慣らしの如く活動を始める。口から吐かれる直線状の超温熱線は恐ろしい威力で進行ルート上を焼き払い、全身からは超温熱線波動を放出して周囲を崩壊させた。
 
最初は両州軍の連合部隊が迎撃を行った。だがゴリアテは足元に群がる戦車や自走砲、自身に集る航空機を事も無げにあしらい、砲撃やミサイルが直撃しても傷一つ負う事無く、悠々と西へ歩を進めていく。
 
事態を重く見たアメリカ大統領は、陸・海・空・海兵隊の四軍に対して非常事態宣言を下し、直ちに此れ等をゴリアテに差し向けた。
 
州軍とは比べ物にならない装備から繰り出される火力を浴びせても、ゴリアテは進行速度すら低下しなかった。寧ろ増えた戦力に比例してアメリカ側の損害は嵩んでいき、ゴリアテにダメージは無い。
 『世界最強』と謳われたアメリカ軍が容易くあしらわれる様子に、人々は戦慄を覚え、悲壮な空気が生まれていた。
 
日が暮れて月が昇り、軍は態勢を立て直すために一旦戦場から退いた。一方のゴリアテは歩みを止めず、街の残骸を自らの後に築いていった。何時の間にか背鰭は翠へと変わっており、全ての其れから同色の粒子が吸収されている様だった。
 
ゴリアテによる被害を、国連は『急迫不正の事態』として正規国連軍の編成を採択する。此の決断は人類の総力戦を意味していた。
 
やがてゴリアテは北太平洋に進出。待ち構えていた正規国連艦隊を視認すると、背鰭は蒼に戻った。
 
艦隊は全力で迎え撃つが抵抗虚しく、九割にも及ぶ艦艇がゴリアテの吐き出す“光の奔流”の前に没していった。
 
最早人類に猶予無く、斯様に非常識な存在を葬るには『核』すら止む得ず。現場となく、上層部となく、そんな声が上がり始めた矢先。其れは“やって来た”。
 
最初に気付いたのはゴリアテの方だった。遠方に漂う巡洋艦に浴びせようしていた超温熱線を、突如として自らの直上に放ったのだ。
 
超温熱線は分厚い雲を射抜き、其の遥か先の標的に命中した。標的は数秒程耐えていたが、次の瞬間には超温熱線の軌道を曲げて往なすと、ゴリアテ目掛けて火炎の奔流を見舞ったのだ。
 
火炎に飲み込まれる寸での所でゴリアテは海に潜り、海面をバリアとして火炎を防いだ。
 
水蒸気爆発の爆風によって激しく揺さ振られる巡洋艦は転覆を免れようと必死で、同時に艦橋ではゴリアテが狙った標的を捕捉していた。
 
其処には蒼と紺色を基調とし、『鬼』と『鎧武者』を合わせた様な姿をした“巨人”が浮いていた。真っ直ぐに大海を見下ろし、やがて緩やかに降りていくと水面のほんの僅か上で止まった。
 
事態の把握に努めていた艦橋からの観測では、“巨人”の頭頂高は一〇〇メートル。そして同存在を便宜的に『オーガ』と名付けた。
 
水上のオーガは背中に二つ、両脹脛に其々一つずつの推進器を噴かしながらも、不動にして辺りに静かな『圧』を放ち、一分(いちぶ)の隙も感じさせない。艦橋員の中にはオーガに畏怖して竦んで(すくんで)しまっている者も少なからず居た。
 
琴線の如く張り詰めていた海上の空気は、艦橋のレーダー員が海中の動体を関知すると同時に破られた。ゴリアテがオーガの真横に飛び掛かり、瞬時に向いたオーガが自らの右腕の肘から先を発射して、ゴリアテの右眼を周りの肉ごと抉り、かつゴリアテ自体を遠方へ殴り飛ばしたからだ。
 
右腕は肘側からの噴流で空中を高速で飛翔し、其れが戻ってくる最中にオーガは両眼に光を集めると、接続と同時にゴリアテに高出力ビームを照射した。
 
しかしゴリアテは、抉られた箇所から血を流しながらも超温熱線波動でビームを防ぎ、超温熱線を放ってきた。オーガは慌てる事も無く、超温熱線はオーガの手前に発生した“白い空間”に阻まれて到達しなかった。
 
オーガが攻撃を防ぎきると、オーガの両手の間の空気が激しく渦巻いた。
 
次にはオーガが両手を前方に突き出し、猛烈な勢いで横倒しの竜巻が放たれた。竜巻は周囲の海を削りながらゴリアテに到達すると、其れを巻き込んで斬り付けつつ空高く舞い上げる。
 
オーガはゴリアテを見上げると、右拳に力を込めた。拳に二、三度電気が這ったかと思うと、次には拳から凄まじい雷が放出された。空中のゴリアテは至る箇所を斬られたからか鈍重で、超温熱線波動を出さずに雷に撃たれて爆炎に包まれた。
 
爆炎に照らされた巡洋艦の艦橋から、初老半ばの艦長は呆然としてオーガを見た。
 
正規国連軍が敵わなかった相手にたった一体で立ち向かい、此れを見事に沈黙させた存在を目の当たりにして、艦長は静かに震えていた。
 
だが震えを更に増す出来事が起きる。空中の爆炎が吹き飛び、衝撃波が海上の全てに降り注いだのだ。船体が軋んで幾多の大きな亀裂が走り、艦橋の窓という窓が割れ、内部に黒煙の混じった潮風が流入する。オーガも多少たじろい様子だ。
 
割れた窓に駆け寄って外へ顔を出した艦長が見たのは、重力に引かれて落ちてくるゴリアテだった。先程の衝撃波は超温熱線波動だと思われるが、威力が今までよりも増している。
 
あまつさえゴリアテの傷は治癒し、抉られた眼も再生していたが、眼の周りの皮膚には小さくない傷痕が残っていた。加えて、背鰭は真紅に染まっている。
 
続けざまにオーガに放たれた超温熱線は波動と同様に強化されていて、“白い空間”でも防ぎきれずにオーガは傷を受けた。
 
体勢を崩し、オーガがゴリアテから一瞬気を反らした隙に、ゴリアテは“急加速”して一気にオーガを海に押し倒した。
 
二体は没して舞台は海中深くに移ったのだが、巡洋艦のレーダーやソナーは先程の超温熱線波動で完全に破損してしまっていた。
 
だが目視であっても、海中の爆発や衝撃、海流の激しいうねりが伝わってくる。血とも油ともつかない液体が海を染めていき、軈て海は静寂を取り戻していった。
 
静寂が戻って数時間後。艦長を含めた乗組員全員は、救助に駆け付けた輸送艦に移乗して海域を後にする。
 
終結後、此の出来事は『巨獣事変』と呼ばれ、世界を大きく変える事となったのだ。
 事変直後から暫くは、人々の間で隕石や流星を恐れる風潮が支配し、後に語る“今”に於いては大分落ち着いてはいるが、其れ等を不吉と捉える心理は残った。
 軍事の面でも『宇宙軍を組織して迫る隕石全て排除すべし』などという主張が一定の幅を利かせていた。無論、眼に見えない程に小さく、大気と摩擦で燃え尽きてしまう物も含めると隕石は毎日降り注いでいるのだ、出来る訳が無い。
 ゴリアテが入るであろうサイズの隕石を落下前に破壊する事も、今の軍備では不可能である。質量の桁が違い過ぎるのだ。軌道を変えるにしても同様である。
 
事変後の調査ではオーガとゴリアテが消えた海底には未発見の海底火山が在り、其れの横っ腹には不自然な穴が出来ていたが、其れ以上は不明。結局、オーガとゴリアテの生死を断定出来ず、人々は更に不安を募らせた。交戦したのが艦艇と艦載機だけではあったが、正規国連軍が歯が立たなかったという事実も拍車を掛け、世界規模で国連に替わる新たな安全保障の形が叫ばれる事態となる。
 
此れを受けて国連は常任・非常任を問わない、全国連構成国を交えた会議を行い、遂に国連を発展解消させた組織として『WEUO(World Everlasting Unity Organization 世界恒久統一機構)』が誕生する。
 
WEUOの誕生によって世界から『国』という枠組みは消滅し、世界はアジア・ヨーロッパ・北アメリカ・南アメリカ・アフリカ・オセアニアという六つの方面(エリア)に区分し直された上で一つに統一された。そうして人類は来るべき時に向けて力を建て直していき、“今”へと戻って話は進むのだ。
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【2014/08/27 20:41 】 | 鬼鋼譚アラハバキ | 有り難いご意見(0)
プロローグ

 其の墓石は頂点が四角錐に尖った角柱である。香炉や線香台は無く、墓前には洗米と塩が供えられ、墓石の両側の花器には新しい榊(さかき)が生けられている。
 そして墓石の正面に彫られている文字は『荒祈(あらき)家奥都城(おくつき)』とあった。此の墓は神式、つまり神道に則った墓だ。
 此処は一般の霊園である。本来、墓地というのは寺の領域に在るため、神道の葬式である『神葬祭(しんそうさい)』で弔うには、一般の霊園等で売られている区画を買って墓を建てなければならない。そうしなければ遺骨を納める場所が無いからだ。
 今日は青い空に白い雲が点々と浮き流れ、其れを背にして悠々と一羽の雲雀が飛んでいる。陽射しも穏やかで、風に戦ぐ(そよぐ)草花は何処かたおやかだ。
 其処に乾いた音が二回、確りと響いた。
 紛う事無き麗らかな日和の下で、伸ばしきった取っ手に中型の木箱を括り付けた、迷彩柄のトロリーケースを傍らに置いた女が、奥都城の前で二礼二拍手一礼をしていた。一見すると場違いな風にも見えるが、奥都城への参拝は合掌ではなく、神社と同じく二礼二拍手一礼で行われるのが正しい。
 終えた女は両手をポケットに突っ込み、奥都城を静かに見上げた。
 女の眼差しは何処か冷めていた。加えて服装はオフショルダーのオレンジ色のTシャツ、Tシャツの下には黒いタンクトップ、そしてデニムのショートパンツにハイカットスニーカーだった。其れらがポケットに突っ込んだ両手と合わせて、女に粗野な印象を纏わせている。
 「五郎八(いろは)御姉様」
 『五郎八』と呼ばれた女は僅かにハッとして振り返った。ロングストレートの髪がふわりと膨らむ。
 セミショートの髪を持った十代後半と思われる、白のトロリーケースを引いた少女が立っていた。五郎八と同じ木箱を左手に提げている。
 白いドレスシャツに藍色のロングスカート、コインローファーという五郎八とは真逆の印象の装いである。顔立ちには幼さが残っているが、真っ直ぐに五郎八を見据える眼は静かな力に満ちていた。
 「神集(かすみ)……」
 「朝から姿が見えなかったので、心配していたのですよ?」
 「別にする事なんて無(ね)ぇだろ。話も別れも昨日の内に済んでんだし、後はさっさと発つだけさ」
 「もぉ、五郎八御姉様ったら。心配していたのは私だけでは無いのですよ? 御父様と御母様は勿論、雅月(みづき)さん達だって……」
 「へいへい、悪かったよ。後で反省してたって言っといてくれよ」
 五郎八は左手の小指を左耳に入れながら『神集』と呼ばれた少女の小言を遮り、再び奥都城に向いた。どうやら五郎八が纏っている印象は服装のせいではなく、生来の性格や言動に因るものの様だ。
 神集は五郎八の行動に『むぅ』と多少頬を膨らませたが、別段気分を害した訳でもなさそうだった。
 神集は慎ましい足取りで五郎八の隣に来ると、同じく奥都城を見上げる。
 「……磨いて下さったのですか?」
 奥都城の表面に付いた幾多の水滴を見つけ、神集が訪ねた。
 「何時帰って来れるか、分かんねぇしな」
 五郎八が答えると、神集も二礼二拍手一礼で参拝をする。神集が終えるのを見計らい、奥都城を見ながら五郎八が口を開いた。
 「不思議な物(もん)だよなぁ」
 「え?」
 神集が五郎八を見る。
 「此処に有(あ)んのは只の『骨』なんだ。肝心の祖霊(それい)は『霊屋(たまや)』の方に居るってのに、どうして拝んじまうんだろうな」
 「……祖霊の憑代(よりしろ)だった事への畏れ故に?」
 少しの思案の後に神集が答える。しかし五郎八は賛成も否定もせず、無言だった。尤も答えを知りたくて五郎八は口に出したのではない。独白に近いものであったし、機会を見計らったのも神集の参拝を妨げぬためである。
 神集も知ってか知らずか、其れ以上尋ねる事はしなかった。
 「行くぞ」
 徐(おもむろ)に五郎八はトロリーケースを摑んで踵を返し、霊園の出口へと進んでいった。神集も小走りで後を追う。
 「んで? 塵(ごみ)砂漠だっけか?」
 トロリーケースのキャスターの音で神集との距離を推測しながら、振り返らずに五郎八は尋ねた。
 「ゴビ砂漠です。塵だなんて、其の土地や住む人々への礼を失しています」
 「ワザとじゃねぇって。砂漠に興味が無ぇだけだし」
 「だからと言って―――」
 「あぁもう、勘弁してくれっ」
 先程の様に五郎八は左手の小指を耳に入れ、歩調を速めた。元々歩幅が大きいため、神集との差がみるみる開いていく。
 「五郎八御姉様ぁ!」
 神集がトロリーケースの取手を摑むか細い右手に力を込め、必死で先頭を行く五郎八を目指した。やがてキャスターの音は遠ざかり、また雲雀の声が戻ってくる。
 こうして五郎八と神集の荒祈姉妹は、故郷に暫しの別れを告げたのだった。

【2013/07/22 20:25 】 | 鬼鋼譚アラハバキ | 有り難いご意見(0)
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