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  • 2018.12
プロローグ
  洞窟は氷雪吹き荒ぶ地に聳える霊峰の地下にあった。
  内部は稀に見る広さで、きちっと整備された壁と天井が続いている。自然が創った面影は当に無い。
 しかし地面、もとい通路に手はあまり加えられておらず、せいぜい平らに均してあるだけの簡素なものだ。
 通行に使うだけ、ましてや『地面』如き。それに費やす手間と人材と金は無駄なのだ。 
 現在、ここの主人(あるじ)は幾つもある〝部屋〟の内、最深部に位置する地点に立ち寄っていた。
 そこには厳かなカプセルが直立し、その中身は黄緑色の液体で満たされ、さらに一〇代前半と思われる少女が浮いていた。
 「……これがねぇ」
 少女を見ながら呟く主人は三〇代と言ったところ。着ている服は寒色系で統一され、左腕はだらんとしていて異様に白い。
 「風倉(かざくら)殿下」
 背後から声がした。主人の名前は『風倉』と言うらしい。
 その風倉が振り返ると、初老の男が右脇に黒い物を抱えて立っていた。白をメインとした法衣調の服を着ている。
 「如何でしょう?」
 男はゆっくりと風倉に歩み寄り、持っていた物を手渡した。
 一歩下がり、ゆっくりとカプセルの中の少女に移った眼差しには、何の感情も見出せない。
 「いいじゃないか。イメージ通りだ」
 受け取った物、墨色で染められた装束を撫でながら、風倉は感心した。その声に反応して、男は視線を風倉に戻す。
 「コイツは何時(いつ)出せる、レドー?」
 装束から眼を離さずに、親指で背後のカプセルを指しながら風倉は尋ねた。
 「このまま行けば直ぐにでも。様子見として一ヶ月程の検査をしますが」
 「検査だと?」
 風倉は顔を上げた。
 「ええ」
 「コイツは『数』だ、多少悪くても構わない」
 この発言に、『レドー』と呼ばれた男の両眼が細まった。そして、そのまま静かに大きく息を吸い込み、左右へウロウロしながら回答を始める。
 「お言葉ですが、それでは『検査は要らない』とする絶対的な根拠には成り得ません。其れが『数』を以って攻める仕様なのだとしても、それなりの『性能』が必要なのです。この世に存在する全ての製品は皆、厳正なる検査を受けるべくして受けるもの。それが存在する許可を得るために必要な『義務』であり『責務』、今殿下の後ろで浮いている其れも例外では無いのです。私は其れを確実に殿下のお役に立たせるため、如何なる妥協も致しません」
 言い終えると同時にレドーはウロウロするのを止めて、風倉へと向き直った。
 「解かって頂けましたか?」
 言われた風倉は少し後悔をしていた。聞きながら思い出したが、レド―は直接的に手を出す事はしない、長いセリフを独特のイントネーションで話す事によって相手の気を滅入らせてくる。『精神的』に責められる事のダメージが大きいのを知っていて、確信犯として実行してくるのだ。

―――此の野郎、“産んだ”時にこんな性格になるとは考えもしなかったなぁ。

 「殿下?」
 昔に浸っているところに呼び掛けられ、反応が遅れた。
 「あぁ、悪い。お前の情熱に敬意を表するよ」
 「有難う御座います」
 レドーは浅く頭を垂れた。
 「今以上にスペックを引き上げてみせましょう」
 「張り切り過ぎて壊すなよ、早くあの〝女狐〟を怖がる様を見たいからな」
 「殿下ともあろう御方が愚問ですねぇ、私が張り切り過ぎて壊した事がありますか?」 
 「一番から五番はそうだろ?」
 風倉が少女を指差した。
 「あれは自壊です」
 「そうは言うがな、その時々の事は俺が来た時には、何時も既に終わった後だ。だから仕方ないだろう?細かな説明は要らないぞ」
 「・・・・・・私が意図的に壊した、と仰るのですか?」
 「違う、素人目には同じだって事だ」
 ビキャッ。
 「あ?」
 風倉とレドーは同時に音の方を見た。
 カプセルの少女の腹に、大きな白い亀裂が走っている。
 二人の目の前で亀裂は緩やかに広がって、間もなく全身に隈なく達した。
 「おま・・・・・・」
 少女は眼をカッと見開き、次には塵芥となって液中に帰してしまった。
 紛れも無い自壊。事は崩れさり、仕切り直しとなった。
 「……すまない」
 「解って頂ければ、それで」
 ちょっとした溝の修復である。
 「今ので糸口は掴めました。培養機内の洗浄と液の交換が済みしだい、次を発生させます」
 「実に頼もしい。俺はジーン共の様子を見てくるから、此処は任せたぞ」
 「承知致しました、殿下」
 二人の男は互いに信頼を深め、目標への決意を新たにした。
 物語の幕が上がる、数ヶ月前の事である。
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【2010/08/16 16:29 】 | 天鬥 | 有り難いご意見(0)
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