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無題
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【2018/07/03 15:48 】 | 回避 | 有り難いご意見(0)
第六話 1-2

無数の流れは地下に這わされ、人々からは遠ざけられて隠れされている。

 

大抵の人間は此処に踏みいる事が出来ない。其れが今は吉と出ていた。

 

「う゛……」

 

赤城が気絶から覚める。

 

開ける眼に直ぐ様、光が飛び込む。反射的に手を翳し、光量を減らして眼を守った。ついでに体勢が仰向けで有る事を知覚した。

 

「つぁ~……!」

 

上体を起こすと体が痛い。

 

スポットライトの様に真上から差す光で足元を見るに、コンクリート的な材質の地面の上に居り(おり)、こんな所にマットも引かずに寝ていれば痛くなるのは当然である。

 

光の周りは一片の隙も無い闇に囲まれている。駅のホームの端から似た様な物を見たばかりだ。

 

「大丈夫かい?」

 

不意に背後から掛けられた声に反射して赤城は体を四分の三程度に捻り(ひねり)ながら、前方へと瞬時にダイブする。

 

恐る恐る首だけを動かして、足越しに先程までの背後を見ると、白い塊が自らの揃った両足の幅からはみ出て見えていた。

 

「し、失礼した。そんな反応を示すとは思わなかったんだ……」

 

聞き覚えのある声だ。

 

もう一度体を起こし、胡座をかいた其処にはザクの足元に居た、あの落ち着いた感じの個体である。

 

個体が赤城の眼を見、『あっ』という表情をするので赤城は小さくビクついた。しかし個体はやおら静かに深呼吸を数回繰り返し、自らを落ち着かせる。

 

「……改めて名乗ろう、僕は“てづま”。君は?」

 

「あっ……赤城、司です……」

 

「“あかぎつかさ”? ……か。宜しく頼むよ」

 

イントネーションからして、姓と名を連ねられて解釈された様だ。

 

直ぐに訂正したい気持ちが起きるが、今は其処じゃないと、流石の赤城もグッと堪える。

 

「此処は……何処、ですか……?」

 

「恐らくは……下水道ではないかな?」

 

“てづま”の言葉に光が駆動音と共に動く。見ると、あのメカニカルな蜻蛉が頭を下にして壁に張り付いていたのだ。複眼部から光を放って、立派に照明の務めを果たしている。

 

壁から離れ、ホバリングする蜻蛉が照らし出した下水道の内径は七メートルといったところ。赤城と“てづま”が居るのは、壁に取り付けた様に端に設けられた通路だ。幅は人が一人通れるかどうかしかなく、よくぞ今まで落ちなかったものである。

 

通路の直ぐ脇には、直径が三〇センチのパイプが走っている。そしてパイプの隣がニ、三段低くなっていて、其れが此の下水道の中心だ。中心は泥水みたいな液体が流れているが、浮遊物やら何やらの気配は無い。

 

『下水道』と意識しても、臭いは別段しなかった。昔に父親と行ったゴミ処理センターの中の方が、此処の千倍は臭ったのを覚えている。

 

「都合良く、此処へと通じる蓋が開きかけていたんだ。開ける術を持っていた者が、直前まで居たのだろうね」

 

“てづま”の言葉に、赤城はまず『ふ~ん……』とだけ思った。当たり前に人語を話している事に関しては、何となく受け入れている自分が居る。

 

次に『どうして下水道に居るのだろう?』と考えた。

 

思い出せたのは、極直近の過去までであった。

 

殴り飛ばされて宙を舞い、後ろから前へ流れてく景色。揺さ振られる脳、弾ける真紅の火花、倒れた体に染み渡る痛み。

 

そして見下ろす蝗王の眼からは、呆れの感情が見えた気がした。

 

「あ゛っ!?」

 

緊張で生唾を飲んだ直後に喋ると出る掠れ。赤城の叫びに、さしもの“てづま”も毛が逆立った。

 

「むっ……虫ぃ! 虫虫虫っ! 虫はっ!? あれっ!? 一杯っ、うじゃうじゃっ……あっ、あの人! ザクザクっ!」

 

混乱し、『グォっ!』と“てづま”に赤城は顔を向ける。

 

「い……今、君の言った事を理解するのに努めているところだ……」

 

今に到って赤城は、其れはパニクっていた。

 

人を喰う化け物が闊歩している。其の現実を思い出してしまっては、赤城でなくとも誰しもが恐れおののいて然るべきだ。

 

加えて今の赤城はイクスではない。エンカウントしたら最後、一分と持たずに骸と化すだろう。

 

「ぉぉぉぉぉ……!」

 

赤城は唸るしか無かった。

【2017/05/27 21:03 】 | 戦神稲荷 | 有り難いご意見(0)
第六話1-1 『跳ぶ』

其の波は、東北の都にも及んでいた。

 

主要な道路に停められている幾多の車は軒並み破壊され、炎と煙が上がっているのも少なくない。

 

加えて其処らに散乱する人間の残骸と、口元を血で汚して其れを貪るイナゴ擬きと怪物という『化け物』の群れが闊歩する様は、『地獄変』の言葉が相応しかろう。

 

『子孫が千代まで栄える様に』と名付けられた此の都も、今は見るも無惨な状況であった。

 

今現在、空には蒼い月が煌々と昇っている。ビルの屋上で注がれる月光を一身に浴び、魔女はヌイグルミを膝に乗せ、血染めの迷彩柄のヘルメットを手に取って眺めていた。

 

化け物の群れが飛来する前から、通達を受けていた此の地の自衛隊が迎撃の構えを取っていた。そして怪物が都の土を踏むと、直ちに火蓋が切られる。

 

自衛隊員達は良く訓練されていて勇敢で、実に統率が取れていた。

 

だが彼らの持つ小銃から放たれた銃弾は、怪物の外骨格の上を跳ねるだけで、逆に怪物の神経を逆撫でてしまう。

 

化け物の群れは自衛隊員達に突撃し、ある者は怪物に殴られて胴体を真っ二つに千切られ、ある者は其れの火炎に焼かれて消し炭となり、背後からイナゴ擬きに襲われて骸と化したりもしていた。

 

そんな状況に於いても、六人の自衛隊員が一匹の怪物の複眼に銃弾をフルオートで集中させ、軈て其の奥に在る脳神経球を破壊した。

 

怪物が地に伏した瞬間、自衛隊員達は雄叫びを挙げる。

 

『複眼を狙う』という対処は瞬く間に広がり、複眼以外に腹部を撃つ者も自然発生した。

 

最終的には乗ってきた装輪装甲車の上部に付いている、自動式の擲弾銃で面攻撃を行って機先を制し、其処に銃弾を浴びせるという手段が主流とする。

 

確かに擲弾銃の威力は目覚ましく、イナゴ擬きは当り所が良ければ一発、そうでなくとも二発で殺せる。怪物に対しても、肘や膝の関節に当たれば動きを鈍らせられた。

 

其れでも化け物の物量と勢いは如何ともしがたく、結果として押された自衛隊員達は生存者を率いて後退。防衛線を築き、次に備えて現在に至る。

 

魔女がヘルメットを、下から優しく放り投げた。

 

ヘルメットはスローリーに放物線を描く。頂点に達した所で魔女の指鉄砲から放たれた、たった一発のショッキング・ピンクの微小な光弾が、ヘルメットを忽ち(たちまち)に粉砕してしまった。

 

ビルの真下に居た化け物の群れは、空でショッキング・ピンクの閃光が炸裂したために其れまでの行動を止め、空に眼を向ける。

 

魔女は眼に灯りを灯しつつヌイグルミを抱え、眼下の群れを目掛けて微笑みながら飛び降りた。

 

其の時の魔女の頭の中は、王宮駅に残した赤城の事が浮かんでいた。
【2017/05/23 20:40 】 | 戦神稲荷 | 有り難いご意見(0)
第壱章 『常世ノ成立』
 始まりは一九年前、アメリカのカリフォルニア州とネバダ州の堺に落下した謎の隕石であった。
 
隕石は全長二〇〇メートルにも及ぶ規模にも関わらず、周辺の大地はおろか街にすら大きな被害を出さずに“着陸”したのだ。
 
後の調査で地面に触れる寸前にスピードが落ちていたという事実が判明したが、此の時点では誰も思いもしない。
 
そして事態は動き出す。大地に突き刺さっていた隕石が突如として破裂すると、中から常識を覆す巨大な怪物が現れたのだ。
 
直後に『巨獣』と呼ばれ、『ゴリアテ』と名付けられる此の怪物は、人間とティラノサウルスを足した様な姿で二足歩行をし、首根っこから尻尾の末端に掛けて、揺らめく蒼いプラズマ・ジェットの様な背鰭を幾つも備え、一三三メートルもの身長を有していた。
 
ゴリアテは肩慣らしの如く活動を始める。口から吐かれる直線状の超温熱線は恐ろしい威力で進行ルート上を焼き払い、全身からは超温熱線波動を放出して周囲を崩壊させた。
 
最初は両州軍の連合部隊が迎撃を行った。だがゴリアテは足元に群がる戦車や自走砲、自身に集る航空機を事も無げにあしらい、砲撃やミサイルが直撃しても傷一つ負う事無く、悠々と西へ歩を進めていく。
 
事態を重く見たアメリカ大統領は、陸・海・空・海兵隊の四軍に対して非常事態宣言を下し、直ちに此れ等をゴリアテに差し向けた。
 
州軍とは比べ物にならない装備から繰り出される火力を浴びせても、ゴリアテは進行速度すら低下しなかった。寧ろ増えた戦力に比例してアメリカ側の損害は嵩んでいき、ゴリアテにダメージは無い。
 『世界最強』と謳われたアメリカ軍が容易くあしらわれる様子に、人々は戦慄を覚え、悲壮な空気が生まれていた。
 
日が暮れて月が昇り、軍は態勢を立て直すために一旦戦場から退いた。一方のゴリアテは歩みを止めず、街の残骸を自らの後に築いていった。何時の間にか背鰭は翠へと変わっており、全ての其れから同色の粒子が吸収されている様だった。
 
ゴリアテによる被害を、国連は『急迫不正の事態』として正規国連軍の編成を採択する。此の決断は人類の総力戦を意味していた。
 
やがてゴリアテは北太平洋に進出。待ち構えていた正規国連艦隊を視認すると、背鰭は蒼に戻った。
 
艦隊は全力で迎え撃つが抵抗虚しく、九割にも及ぶ艦艇がゴリアテの吐き出す“光の奔流”の前に没していった。
 
最早人類に猶予無く、斯様に非常識な存在を葬るには『核』すら止む得ず。現場となく、上層部となく、そんな声が上がり始めた矢先。其れは“やって来た”。
 
最初に気付いたのはゴリアテの方だった。遠方に漂う駆逐艦に浴びせようしていた超温熱線を、突如として自らの直上に放ったのだ。
 
超温熱線は分厚い雲を射抜き、其の遥か先の標的に命中した。標的は数秒程耐えていたが、次の瞬間には超温熱線の軌道を曲げて往なすと、ゴリアテ目掛けて火炎の奔流を見舞ったのだ。
 
火炎に飲み込まれる寸での所でゴリアテは海に潜り、海面をバリアとして火炎を防いだ。
 
水蒸気爆発の爆風によって激しく揺さ振られる駆逐艦は転覆を免れようと必死で、同時に艦橋ではゴリアテが狙った標的を捕捉していた。
 
其処には蒼と紺色を基調とし、『鬼』と『鎧武者』を合わせた様な姿をした“巨人”が浮いていた。真っ直ぐに大海を見下ろし、やがて緩やかに降りていくと水面のほんの僅か上で止まった。
 
事態の把握に努めていた艦橋からの観測では、“巨人”の頭頂高は一〇〇メートル。そして同存在を便宜的に『オーガ』と名付けた。
 
水上のオーガは背中の二つのバーニアを噴かしながらも、不動にして辺りに静かな『圧』を放ち、一分(いちぶ)の隙も感じさせない。艦橋員の中にはオーガに畏怖して竦んで(すくんで)しまっている者も少なからず居た。
 
琴線の如く張り詰めていた海上の空気は、艦橋のレーダー員が海中の動体を関知すると同時に破られた。ゴリアテがオーガの真横に飛び掛かり、瞬時に向いたオーガが自らの右腕の肘から先を発射して、ゴリアテの右眼を周りの肉ごと抉り、かつゴリアテ自体を遠方へ殴り飛ばしたからだ。
 
右腕は肘側からの噴流で空中を高速で飛翔し、其れが戻ってくる最中にオーガは両眼に光を集めると、接続と同時にゴリアテに高出力ビームを照射した。
 
しかしゴリアテは、抉られた箇所から血を流しながらも超温熱線波動でビームを防ぎ、超温熱線を放ってきた。オーガは慌てる事も無く、超温熱線はオーガの手前に発生した“白い空間”に阻まれて到達しなかった。
 
オーガが攻撃を防ぎきると、オーガの両手の間の空気が激しく渦巻いた。
 
次にはオーガが両手を前方に突き出し、猛烈な勢いで横倒しの竜巻が放たれた。竜巻は周囲の海を削りながらゴリアテに到達すると、其れを巻き込んで斬り付けつつ空高く舞い上げる。
 
オーガはゴリアテを見上げると、右拳に力を込めた。拳に二、三度電気が這ったかと思うと、次には拳から凄まじい雷が放出された。空中のゴリアテは至る箇所を斬られたからか鈍重で、超温熱線波動を出さずに雷に撃たれて爆炎に包まれた。
 
爆炎に照らされた駆逐艦の艦橋から、初老半ばの艦長は呆然としてオーガを見た。
 
正規国連軍が敵わなかった相手にたった一体で立ち向かい、此れを見事に沈黙させた存在を目の当たりにして、艦長は静かに震えていた。
 
だが震えを更に増す出来事が起きる。空中の爆炎が吹き飛び、衝撃波が海上の全てに降り注いだのだ。船体が軋んで幾多の大きな亀裂が走り、艦橋の窓という窓が割れ、内部に黒煙の混じった潮風が流入する。オーガも多少たじろい様子だ。
 
割れた窓に駆け寄って外へ顔を出した艦長が見たのは、重力に引かれて落ちてくるゴリアテだった。先程の衝撃波は超温熱線波動だと思われるが、威力が今までよりも増している。
 
あまつさえゴリアテの傷は治癒し、抉られた眼も再生していたが、眼の周りの皮膚には小さくない傷痕が残っていた。加えて、背鰭は真紅に染まっている。
 
続けざまにオーガに放たれた超温熱線は波動と同様に強化されていて、“白い空間”でも防ぎきれずにオーガは傷を受けた。
 
体勢を崩し、オーガがゴリアテから一瞬気を反らした隙に、ゴリアテは“急加速”して一気にオーガを海に押し倒した。
 
二体は没して舞台は海中深くに移ったのだが、駆逐艦のレーダーやソナーは先程の超温熱線波動で完全に破損してしまっていた。
 
だが目視であっても、海中の爆発や衝撃、海流の激しいうねりが伝わってくる。血とも油ともつかない液体が海を染めていき、軈て海は静寂を取り戻していった。
 
静寂が戻って数時間後。艦長を含めた乗組員全員は、救助に駆け付けた強襲揚陸艦に移乗して海域を後にする。
 
終結後、此の出来事は『巨獣事変』と呼ばれ、世界を大きく変える事となった。
 事変直後から暫くは、人々の間で隕石や流星を恐れる風潮が支配し、宇宙軍を組織して迫る隕石全て排除すべし』などという主張も飛び出す程であった。眼に見えない程に小さく、大気と摩擦で燃え尽きてしまう物も含めると隕石等は毎日降り注いでいるのだ、出来る訳が無い。
 ゴリアテが入るであろうサイズの隕石を落下前に破壊する事も、今の軍備では不可能である。質量の桁が違い過ぎるのだ。
 また
事変後の調査でオーガとゴリアテが消えた海底には未発見の海底火山が在り、其れの横っ腹には不自然な穴が出来ていたが、其れ以上は不明。結局、オーガとゴリアテの生死を断定出来ず、人々は更に不安を募らせた。交戦したのが艦艇と艦載機だけではあったが、正規国連軍が歯が立たなかったという事実も拍車を掛け、世界規模で国連に替わる新たな安全保障の形が叫ばれる事態となる。
 
此れを受けて国連は常任・非常任を問わない、全国連構成国を交えた会議を行い、遂に国連を発展解消させた組織として『WEUO(World Everlasting Unity Organization 世界恒久統一機構)』が誕生する。
 
WEUOの誕生によって世界から『国』という枠組みは消滅し、世界はアジア・ヨーロッパ・北アメリカ・南アメリカ・アフリカ・オセアニアという六つの方面(エリア)に区分し直された上で一つに統一された。そうして人類は来るべき時に向けて力を建て直していき、現在へと時間を飛び越えて話は進むのだ。
【2014/08/27 20:41 】 | 鬼鋼譚アラハバキ | 有り難いご意見(0)
第五話1-2 『イクス』
 「ぃあぁぁぁぁぁ!」
 
虚勢一発、イクスは左方通路を全力疾走する。百メートルを七秒で走破するスピードを発揮し、ひたすらに突破だけを考えて突き進んだ。
 
しかし肝心のイナゴ擬きは外界を遮断して肉を咀嚼する事に務めており、決意が徒労に終わっている事をイクスは知るよしも無い。
 
突き当たりの壁に半ばショルダータックルを当てる形でスピードを殺し、素早く左の下り階段へ身を投じると、イクスは今来た道を壁越しに慎重に見た。追撃者はゼロだ。
 「
うしっ」
 
イクスは下を目指す。全力疾走後ではあるが、息は全く乱れてはいない。程無くしてホームへと着いたイクスは、下に向けていた視線を上げて双方の路線に電車が到着しているのを確認した。
 「
やべっ!」
 
車内の窓や床は、ぶちまけられた血やへばり付いた肉片で埋め尽くされていた。其れを見てイクスは慌てて下からは見えない位置まで階段を戻り、僅かな壁の隙間から階下を観察する。
 
車内を彩っているのは乗客達の成れの果てだろう。イナゴ擬きや怪物は視認出来ないが、乗っていないとは断言出来ない。線路を歩いて行けばとイクスは思っていたが、此所はホームの末端近くである。電車が停まっているとなれば、地下の時の様に行動しなければならず、しかも今回はエンカウントが必至と想定された。
 「
・・・・・・無理だ」
 
イクスは線路を諦めた。階段を昇って最初と同じ様に全力疾走した道を見る。まだゼロだった。
 
ちらと眼をやった先は、噴水に通じる改札口である。赤城が休日に王宮駅に来た時に使う物で、実は改札を出て左へ進むと東口に降りる階段が有るのだ。現状を鑑みるに、出口は其処だけだ。
 「
やったらぁな・・・・・・!」
 
イクスは行動に移した。姿勢を低くしつつも可能な限りの速度で改札を目指し、手前で軽く跳んで目標を越えた。直ぐ様真横に移動して壁づたいにカクカクと動き、壁の終わりまで来ると左眼の隅の奥に映る窓を定めて駆けた。
 
窓の前でイクスは止まった。目当ての階段は直ぐ右手だ。だがイクスはそちらに向く事無く、窓の外を眺めて動かなかった。
 
眼下のロータリーに転がるタクシーとバス。幾つかの車両からは火があがり、黒煙が立ち上っていた。アスファルトの地面は広範囲が赤く染められて、少なくない死体の残骸が見受けられる。案の定、結構な数の怪物達が跋扈していた。
 
けれども、怪物達に混じって少なからずの人間達が居る。いや、『人間の形をした者達が居る』と言った方が正しかった。存在達は怪物に臆する事無く立ち向かい、善戦している様に見える。良く良く眼を凝らすと死体の他に怪物の死骸が確認出来た。死体と思っていた物の中にはイナゴ擬きの死骸も紛れている様で、イクスは呆気に取られた。
 「
何が居んだよ・・・・・・」
 
状況を把握しようと、外に意識を傾け過ぎたのがいけなかった。危機がイクスの背後にまで迫っている事に気付けなかったのだ。
 「
ギュアアアアア!!!!!」
 「
げっ!?」
 
振り返る途中でイクスは怪物に首を掴まれ、猛烈に壁に押し当てられて其れを突き破った。飛び散る壁の破片を伴い、イクスは怪物と共にタクシー乗り場の庇を破壊して地面に激突した。
 「
むげっ! むげぇ!」
 
イクスは首を怪物に強く押さえ付けられて動けない。体感的にはV字に曲がっている気が犇犇とするのだが、其れは杞憂に過ぎない。
 
怪物がイクスの首から手を離して、拳を打ち据えようと勢い良く振りかぶった。


 
バシュンバシュンバシュン!


 
突如立て続けに響いた発砲音。怪物に三発の淡灰色のビーム弾が直撃し、脇腹が穿たれた。
 「
ギュア゛!?」
 
怪物が慌ててビーム弾が飛んできた方向を見るのと、二つの白い物体が突撃を敢行したのが同時であった。
 「
どっしゃあ!」

  「せぇい!」
 
気合いと共に怪物がイクスから弾き飛ばされた。出来事に着いていけず、イクスは転がり行く怪物を呆けて見ていた。其処に声が掛かる。
 「
大丈夫か!?」
 
自らに駆け寄って左手を差し出した相手に、イクスはギョッとした。
 
頭部、胸背、両肩、両前腕、両手、両膝、両下腿、両足に濃灰色の各種装甲。装甲の下に淡灰色のアンダースーツを着、腰にはバックルとバンドと土台が濃灰色で、バックルの中心の水晶玉が淡灰色であるベルトを巻いていた。
 
そして頭部装甲の眼は、ゴルフボール程のクリスタル質の黄色いモノアイだ。
 「
ぶ、無事です・・・・・・」
 
差し出された手を取りながらイクスは答える。立ち上がり、改めて目の前の存在を見ると、『イクスと同じ』である事が解る。ただ色彩はイクスと比べて地味であるし、各種装甲の雰囲気も所謂『量産型』に準じている印象を受けた。何より『獣人型』ではなく、完全なる『人間型』だ。
 「
(ザクっぽい)」
 
イクスはそう思った。
 
するとザクが突然、イクスを横に突き飛ばした。考えが読まれたかと焦ったが、ザクは再び攻勢を掛けてきた怪物に応戦するのだった。
 
ザクの右手にはスカルマグナム並みの大型拳銃が握られていた。ザクのバックルの水晶玉が発光を始め、銃口から先程のビーム弾が数発放たれて怪物の胸に命中する。
 「
ギュゲァァァァァ!!!」
 
怪物は怯まずにザクを目指す。大きく振り上げた右側の腕をザクに見舞った。
 
其れをジャンプで避けたザクは反対側に越えながら距離を取り、怪物の背中に発砲しながら着地した。
 
直ちに怪物は振り返って火炎をザクに浴びせるが、ザクの足元を駆け抜けて、先程の二つの物体が立ちはだかった。
 
二つの物体は四つ脚の獣の様だ。大きさはキタキツネと変わらない様で、二匹の手前で火炎は反発する磁石みたいに押し返されていた。
 「
セセラギっ!」
 「
ああ!」
 
二匹が跳び退いて火炎が弾け消え、ビーム弾を撃ち込みながら距離を詰めたザク―――セセラギは、何時の間にか手にしていた左手のサバイバル・ナイフと思われる刃物を、怪物の胸部の脆くなっていた箇所に突き刺した。
 「
ギュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!」
 
サバイバル・ナイフが深く突き刺さり、体液が外に流れ出している。怪物は満足に動けない様で、赤城は心臓を刺したのではないかと思った。
 「喰らえ・・・・・・!」
 
セセラギは唐突にサバイバル・ナイフを抜き、大型拳銃を穴に突きつけた。

 セセラギは引き金を立て続けに引き、幾多のビーム弾が怪物の体内を引き裂いた。
 「ギュゲァ・・・・・・!」
 胸部を散々に屠られても尚、怪物は膝を着かない。両の複眼はセセラギを捉えて離さず、ギラつき、未だ殺す事を諦めていない。
 全ての手を拳にし、腕全体に有らん限りの力を込め、やがて後ろに倒れて静かに事切れた。
 セセラギは怪物に背を向け、イクスの方に歩み寄ると唐突に切り出した。
 「君は、何処の隊の所属か?」
 「えぅっ?」
 「どうした?」
 「いゃ・・・・・・いえ。自分は、何処の隊にも属してはいませんが・・・・・・」
 「属していない?」
 「全く、何処にも・・・・・・」
 「有り得ない。ダキニを纏うのは荒子省(あらごしょう)に籍を置く全員と、憲門省(けんもんしょう)で『備(そなえ)』の位を持つ奴だけだ。『備』との歩調協同は発令されていない。だから君は私と同じ、荒子省が各幻隧道(げんずいどう)を防衛するために配置した隊に所属している筈だ」
 「おぉ・・・・・・お・・・・・・?」
 「君のダキニが全く知らない系統であるのは気になってはいるが・・・・・・見たところ、白狐(びゃっこ)も連れていないのか?」
 話がまるで理解出来なかった。聞いた事の無い単語のオンパレードは、イクスを迷宮に閉じ込めた。
 言葉に詰まって固まるイクスを、セセラギは何するとも無く見ていた。しかしフルフェイスの頭部装甲のせいで表情は見えないが、イクスを訝しんでいる事は感じ取れた。だがイクスの反応は当然である、何もかもが解らないのだ。
 「お前、名前は?」
 イクスとセセラギの間の空気を、不意に別の声が不審の籠ったトーンで割り込んだ。しかしセセラギの他には誰も居らず、イクスはセセラギの肩越しを左右から覗いてみるが、やはり居ない。
 「下だ、下」
 言われた通りにイクスは下を見た。
 セセラギの足元の両脇に、先程の二匹の動物が居た。大きさもそうだったが、姿もキタキツネと変わらない。ただ二匹共に雪の様に白い毛並みで、尾の後ろ半分が黒く、黄土色の虹彩と黒い瞳を持ち、首に紅白の注連縄を巻いている。
 またイクスから見て右の個体は眼付きが鋭く、両前足の足先から肉球の『掌球』の直ぐ後ろと思われる位置までが黒い。逆に左の個体は右と比べて落ち着いた印象で、此方は両後ろ足の足先から肉球の『掌球』の直ぐ後ろまでが黒かった。
 「キツネ?」
 イクスが首を傾げる。
 「はぁ? 俺達はびゃっこだ」
 右の個体が人間と同じく確りと口を動かし、はっきりと人語でイクスに答えた。
 「わぉぅ!?」
 イクスが数歩飛び退いた。
 「えぇっ!? えぇ!?」
 「・・・・・・何が言いたいんだ?」
 「うぁぁぁ・・・・・・」
 「落ち着いて。焦らなくても大丈夫だから」
 やり取りを見ていた左の個体が、イクスに声を掛けた。
 先ずは此方から名乗ろう。僕達は―――」


 リィィィィィ!!!


 左の個体の紹介を擘く警報が遮った。足元で爆竹が爆ぜたかの如く跳ねたイクスはやがて、セセラギの肩口に飛来して蜻蛉の形をした、オニヤンマより一回り程大きい物体に気付いた。
 蜻蛉はメカニカルで、人工物だった。警報の他に複眼を激しく点滅させて、差し迫った事態を知らせている。
 怪物相手とは違う、其の場に満ちていく緊迫感に、イクスは慄いた。
 見渡す地上、見上げる空中。首の可動域、視力の許す限りにイクスは辺りを伺う。鉄パイプを地面に激突した際に落とした事を大いに悔やみ、両の拳を力を込めて握るしかなかった。
 「来たぞ!」
 離れた所に居た別人のザクが指差した空を、其の場の全員が注目した。
 雲の下を黒い物体が飛んでいるのを確認して、反射的にイクスは魔女だと思った。セセラギも含め、ザク達は物体目掛けて弾幕を形成したが、物体は全く意に介さずに全速で突っ込み、無傷で地上に降り立った物体を見たイクス以外の者達は戦慄した。
 人体と然程変わらないスタイルの体に、推定百八十三センチの身長。全身を包む外骨格は洗練された鎧と見紛うばかりで、漆黒と深いモルフォブルーが入り交じっている。背の翅には黒・赤・黄色の稲妻状の紋様が複雑に配され、『凶悪に擬人化されたトノサマバッタ』と形容出来る顔をしていた。
 「こ、蝗王(こうおう)・・・・・・!?」
 セセラギの声が震えていた。確かに閉じられた背の翅は持ち主を蛮カラのマントの様に包み、色合いも相俟って荘厳で、『蝗王』と呼ばれた個体の威圧感を更に増している。
 しかしセセラギの震えはもっと根源的な問題に端を発し、セセラギ以外のザクや、左右の個体以外の白狐達も同様の感情に心を支配されている様だった。
 不意に蝗王の眼と、イクスの眼が合わさった。
 「撃てぇぇぇぇぇ!」
 蝗王に向けられていた全ての大型拳銃が一斉に火を噴いた。出来る限りに連射される数多のビーム弾が蝗王に命中するが、蝗王の体には掠り傷の一つも付かない。
 「何をしているんだ! 君も加勢してくれ!」
 「ぅえっ!?」
 左の個体がイクスに叫んだ。
 「つ、突っ込めと!?」
 「近距離のダキニなのかい!?」
 「丸腰ですよぉ!」
 「何だって!?」
 左の個体とイクスの応酬を余所に、蝗王はビームを受けながら手を顔に当てて溜め息を吐く様に俯くと、当ててない方の腕全体から陽炎が生じて緩やかに渦巻いた。極々僅かだが、青紫の色が含まれている。
 ヒュっ、と陽炎が先程に空を指したザクの方に放たれた。


 ズガァァァァァンッ!!!!!


 陽炎は広範囲の大地を消し飛ばした。激しく舞うアスファルトの破片の嵐で、ザク達の姿は確認出来ない。
 「此方セセラギ! 蝗王飛来! 繰り返す! 蝗王飛来―――」
 「セセラギがメカニカルな蜻蛉に対しての状況説明の間、残りのザク達は蝗王に向けていた大型拳銃の銃口に、単灰色のビームをチャージしていた。バックルの水晶玉が一際力強く輝いている。
 「此れだけの力技(りょくぎ)が集まれば・・・・・・!」
 セセラギもまた、水晶玉を輝かせてビームをチャージしている。当の蝗王はしかし、微塵も対応する素振りを見せていない。


 俺もアレが欲しい―――


 イクスがセセラギの武器を見ながら思った時、大型拳銃を構えた全員のチャージ・ビーム弾が蝗王を襲った。
 全てのチャージ・ビーム弾が同時に蝗王へ着弾し、炸裂したエネルギーの余波で巻き上げられたアスファルトの砂礫と煙が、周囲の世界を遮る。
 「うわっ!? ゴフォっ! ゲフォっ!」
 イクスは条件反射で咳き込んで手を振り回した。実際は頭部装甲のお陰で、全く影響は無いのだが。
 「見えなっ! どうなったぁ!?」
 「お前黙れ!」
 無警戒なイクスに、眼付きの鋭い個体が吠えた。
 ゆらり。
 影がイクスの前に躍り出る。
 「おっ・・・・・・」
 不意に探し物が見つかった時のトーンで、イクスが言葉を発した次には、蝗王の健在が確認された。
 「蝗王!」
 セセラギが大型拳銃の引き金を引くより速く、蝗王は片側の翅を広げた風圧でセセラギと個体達を吹き飛ばした。
 「ちょっ!? んぐっ!?」
 セセラギに気を取られたイクスを、蝗王が片腕でのネック・ハンギング・ツリーで吊し上げる。必死に藻掻くイクスを蝗王はじっと見つめ、やがて口を開いた。
 「ヤツハ、ドコダ?」
 怪物の本能に塗れた咆哮とは明らかに一線を画す、確固たる理性を伴った音節。蝗王もまた、人語を発してイクスに問うた。
 「ドコニイル?
 「~!」
 「ニオッテイルゾ」
 「~!!!」
 やがて蝗王の態度に怒気が滲んできた。無論、イクスには気付く余裕が有る筈も無い。
 「ツグムカ、ワッパ・・・・・・」
 そして蝗王がフッ、とイクスを離すと、ボディーブローを叩き込んだ。
 陽炎も無い、単純で普通のパンチ。当人としては苛ついて壁に八つ当たるぐらいの感覚と思われ、結果を言えば、イクスは十メートル程吹っ飛ばされただけだ。
 だが宙を舞っている間のイクスの全身からは、真紅の火花が盛大に連鎖的に散っていた。火花が爆ぜる度にイクスの装甲は砕け、アンダースーツが裂ける。イクスが受けたダメージは途方も無かった。
 「がぁ!」
 イクスはアスファルトに叩き付けられてゴロゴロと転がり、やがて仰向けで止まった。体に残っている装甲やアンダースーツが、真紅の閃光の破片となって剥がれ落ち、先に地に落ちていた諸々の破片と共に風へと消える。
 イクスは赤城に戻った。
 赤城が呻く。着ている服や靴に損傷は何処にも無く、傍目には何ともない。しかし肉体には、確固たる痛みがある。ひ弱な赤城が立ち上がれない程に。
 頭がぐわんぐわんとしている。今まで知覚していた状況が徐々に解らなくなって、焦点もボヤけてきた。
 「ゼイジャクナ・・・・・・」
 歩を進めた蝗王が、足元の赤城に卑下の響きを吐き捨てる。
 此の日赤城は、人生初の気絶を経験した。
 

【2014/06/02 21:34 】 | 戦神稲荷 | 有り難いご意見(0)
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