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第三話 『開宴』

  日頃から二番目に世話になっている電車が、ガッコウの最寄り駅の二番線から定刻通りに発車する。
  帰りの車内は何時も程々に混んでいて、ちらほらと席は空いているものの、一つ目の駅で降りるので必要は無い。 
  吊革を掴んでいない手は、吊革を掴んでいる腕の上腕に置くのが常である。痴漢の冤罪は晴らす事が困難を極めるという事実から、手を腰より下に位置させない様に意識をしている。此れも先手の一つである。
  右へ流れていく景色の小綺麗な筈の団地は、薄汚れたドアのガラス越しに見ているせいか、何ら感じる物が無い。無理して感じるとするならば、汚れで団地の本来の魅力が殺がれている事だろうか。どちらにしろ、今の赤城にとっては些末な事に過ぎない。
  もとい、電車に揺られながら思う事など何も無いのだ。行き先を決めたのだから乗車し、乗り換えなら降り立った駅で確認をすればいい。赤城にとって電車内とは、『節度有る脱力の場』でしかないのである。
  一切の自発的な動きをせず、電車の内装と化した赤城は揺られるがまま、日頃の拠点たる王宮(おうみや)駅へと到着した。
  王宮駅は在来線のホームが連なる一階、多様な店が犇めく二階、新幹線が発着する三階、そして地下鉄が走る地下一階から成る大型の駅である。特に二階は各所からの客が合流して流れが形作られる場所であるため、息を整えられる様に洒落た噴水が設けられているのが特徴だ。
  プラットホームに降り立つと、赤城は目の前のベンチに座った。ガッコウに通ったための脳疲労で、『四肢への命令伝達の効率が落ちている』という体(てい)の倦怠感のせいである。
  加えて今日の赤城は“特別”な遭遇もあり、普段以上に腰が重かった。此のまま横になって呆けていたい願望が心に渦巻いたが、直ぐにチキンな理性に懇願される。仕方なく赤城は立ち上がり、回れ左をして階段を昇る事にした。
  億劫な足取りでグダグタと段を踏み、他人より非効率な歩数で二階へ到着すると、赤城は一階へ逆戻る階段の横を通り過ぎて改札を抜ける。
  抜けた先は東西を結ぶ大きな通路だ。特に例の噴水を中心とした周囲十二、三メートルの空間は『GX-9900』が丁度立てる程の高さが有る。
  赤城は噴水に引き付けられた幾人かの輪の中に入ると、リュックを下ろして噴水の縁に座った。
  駅に着いた時とは違い、倦怠感は和らいでいた。今は寄り道を考えられる程度の気力が湧いている。此の場所からならば西口の電器店か、東口のゲーセン通りとなる。
  赤城は頬杖を突く時、掌ではなくて拳を当てる。其の方が高さが稼げて、不必要に首が曲がって痛むのを防げるからだ。
  そうして西か東かの思案を暫し巡らす。しかし、よくよく考えていくと双方共に乗り気になれず、次第に寄り道の気分は萎えていってしまった。
  赤城は噴水で消費した時間を少し悔いた。確実に電車を一本逃している。次は五分後か、十分後か。
  「・・・・・・素直に帰ろう」
  そう言って赤城は立ち上がって踏み出した。だが、五歩もしない内に止まってしまった。眼前に天井を指差して騒つく人々が居たからだ。
  つられて赤城が天井に眼をやると、其れを構成している黄ばんだアクリル越しに、“何か”が五、六匹群れていた。そこそこに大きく、少なくとも鳥では無い事は解ったが、其れ以上の情報は得られなかった。
  「見えねぇ・・・・・・」
  赤城はアクリルの黄ばみ加減に不満を漏らした。“何か”は未だに屯(たむろ)している。
  其れが不意にパッと飛び退くと、次には更に大きな“何か”が、天井を突き破って構内に突入してきた。群衆が慌てて其の場から離れる。
  「ん゛っ!?」
  赤城は咄嗟にリュックを掴み、弾かれた様に駆け出した。直後に数多の破片が床に叩き付けられる音と、“何か”が着地したであろう振動が伝わってきた。
  ろくに前を確認しなかった赤城は群衆の一人の右肩にぶつかって回転しながら転んでしまった。急いで謝罪を口にしながら振り替えると、落ちてきた“何か”は先程まで赤城が居た場所に佇み、背中の翅をゆっくりと畳んでいた。群れていた奴等も次々に“何か”の周りに降りてくる。
  “何か”は異形で巨大であった。
  ギラついた複眼、生理的嫌悪感を引き出す様に蠢く顎、其れらを含めた何とも醜悪な顔、強烈な威圧感を与える体躯、全身を包む錆色の強固な外骨格、三本の指が付いた二対の厳つい腕、鳥脚型の関節を持った一対の頑強な脚、ドラム缶の様な腹。
  二足歩行で前屈気味の怪物然とした其の姿は、『バッタ目』の生物の様相が多分に含まれている様に赤城には思えた。特に顔に。
   群れている奴等の方は錆色の外骨格や複眼や顎は怪物と同じであったが、此方は『コーギー程のイナゴ』といった体の造りだ。差し詰め、“イナゴ擬き”と言ったところである。
  両者を見比べた赤城が引きつりながら呟く。
  「む、虫・・・・・・か?」
  言葉に反応したかと思うタイミングで、怪物が床を強く蹴った。赤城から見て左方で突出していた中年男に飛び掛かり、捕らえると直ぐ様喰らい付いた。
  「げぇあ!」
  中年男の声は其れだけだった。怪物は相手の顔面を瞬時に抉り、周囲に鮮血を撒き散らしながら骨ごと肉を猛烈に喰い進め、あっという間に上半身を全て腹に落とし込むと、残った下半身を後方に投げ捨てた。
  一瞬にして広げられた地獄絵図に、群衆は金切り声を挙げて逃げ出した。赤城も転んでいた姿勢から手足をバタバタさせて立ち上がり、来た改札のバーを抉じ開けて“逆戻り”の横を過ぎると、直ぐに右の長い通路に入った。そこから脱兎の如く駆けていこうとしたが、左右に数々立ち並ぶ店や数ヵ所の階段を昇ってきた状況を知らない利用客の波に道を阻まれ、思うように速度が出せずにいた。
  「ギュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
  怪物は顎から鮮血を滴らせながら吼え、西口へ逃げた人々に突進していく。天井の風穴からは新たなイナゴ擬きと怪物が次々に飛来して構内に侵入し、最初から居た奴等と共に方々へ散らばっていった。
  「どいてください!ど、どいてぇ!」
  他の者達と人混みを泳ぎながら赤城は叫んだ。本当なら我を押し通す事はしたくはない。だが先程の様な光景が眼に焼き付けば、誰だって我を通す。生きたまま喰われるのを望む輩なぞ有り得ない事だ。
  掻き分けられた客は口々に憤りの声を漏らすが、此の直線に殺到した者達には届かない。程無くしてイナゴ擬きが通路に到達して人を捕らえ始めると、客から憤りは消し飛んだ。
  辛うじて波を抜けだせた赤城は漸く真っ当な速度が出せていた。通路の中程まで到達し、脚を止めず肩越しに振り返れば、ぶれる視界のあちこちで人間から噴き出す血飛沫が眼に飛び込んでくる。
  益々恐怖に呑まれた赤城は必死の形相で走り続ける。随分と前から気管が激しく出入りする呼気で痛んでいたが、赤城は其れを必死に耐えていた。
  記憶が確かなら、もう少しで右手に改札が見えてくる筈である。其処を出て直ぐ左に曲がれば西口への出口になっている。ゴールが近ければ人間とは頑張れる生物だ、此の赤城も例外ではない。
  「ッ―――!」
  通路の末端となる書店の前を過ぎた時、遂に赤城は望んでいた改札を捉えた。半ばスライディングを見舞う形でスピードを殺し、どうにか赤城は入り口を掴んで止まれた。荒々しい呼吸で閉じているバーを跨ごうとした。
  「うぁぁぁぁぁ!」
  「!?」
  改札の向こうの男が三匹のイナゴ擬きに集られていた。懸命に引き剥がそうとしても、六本足の各先端の二股の爪が深く捕らえて離さない。
  其の内の一匹が男の左腕の付け根を素早く食(は)んで腕を落とすと、痛みに堪えきれずに倒れた男は直ぐにトドメを刺されて、哀れにもイナゴ擬きの『餌』と化してしまった。
  貪るイナゴ擬きの後ろからは怪物がドカドカと次々に駆けていく。既に西口は怪物とイナゴ擬きの通用口となり、人間の通行は出来なくなっているようだ。
  急いで改札から離れた赤城は酷く狼狽した。頼みの出口は奪われ、現在地は通路の行き止まりときている。そして、人間達を血祭りに上げながら、大量のイナゴ擬きが此方に迫ってきていた。
  「っど、どぼぼ・・・・・・」
  『どうしよう』の言葉すら言えない。赤城には、壁を作るパントマイムの様に両腕を動かしながら、後退りしていく事しか出来なかった。
  「ぁわっ!」
  点字ブロックに踵が引っ掛かり、そのまま転んで仰向けになってしまった。
  脊髄反射で上半身が起き上がったものの、こうなるとネガティブな赤城の思考は止まってしまう。前からはイナゴ擬き、隣のフロアには怪物。逃走が封じられた上に丸腰とは、どう見ても状況は詰んでしまっている。
  最早電池の切れかけた玩具の様に、ぎこちなくしか動けなかった。喰われるまでの猶予が刻々と減っていくが、『辞世の句』は用意出来そうもない。
  「@◎☆#‰Å〒―――」
  ろれつが回らなさ過ぎていて言葉ではない。其れでも、次には聞き取れる単語が出た。
  「―――ろ?」
  予期せず眼に飛び込んできたのだ。
  朱肉程のサイズの正方形で、中に三回り小さい逆正三角形が描かれたボタンが貼られた柱。柱は空洞となっており、空洞内は三人が丁度収まるスペースで、此方より一段階明るかった。
  赤城は発見から理解をするまで堂々と三拍を費やし、自分の真左に位置する其の空洞を持った柱―――エレベーターに飛び掛かる勢いで向かった。
  思考も戻り、次に何をすべきかが考えられる。右手を引いて拳を作り、ボタンに狙いを定めた。
  「だぁい!」
  手打ちのストレートで押されたボタンは正常に稼働をし、ドアが音も無くスライドして赤城を招き入れる。『閉』と階下へ向かうボタンを同時に連打しても結果は速まらないが、気持ちがそうさせてしまうのだ。
  定められたプログラムに則ったペースで、ドアがスゥと閉じた。自分を収めた筒が階下へ引き込まれ始めると、今まで居たドアの向こうに追い詰められた人々とイナゴ擬きが到達した。連打するボタンを凝視していなかったら、きっと赤城は誰かと眼が合って自責の念に苛まれただろう。
  幸いにも眼が合う事は起きず、無事に階下の地下鉄が乗り入れるホームに着いた赤城は安堵した。
  上の騒動とはまるで無縁の、静寂が支配する空間だった。誰も居らず、明かりはホームの天井に配置された蛍光灯だけで、周囲を闇が囲んでいる。夜明け前の沖合いにポツンと浮かぶ船に乗っている感じだ。
  遥か彼方までホームが伸びているが、どうやら一番端に降り立った様である。エンカウントをしない事を切に願いつつ、赤城は意を決して歩み出した。
  静かさに響く靴音は何とも不吉だった。敵を招く招待状とでも言うべきか、一歩事に相手も近づいて来ている想像が膨らんでいく。
  「何か出んなよぉ、絶対に出んなよぉ。・・・・・・フリじゃない、本当に出んじゃねぇぞ。止めろよな、そういうのは要らないんだ―――」
  赤城は単独になると独り言を良く喋る。其れは暇を紛らすため、状況を確認するため、不安を削るための何れかの理由が常に有るからで、普段は脳内で済ましている。衆人環視が無い、今の状態が本来の赤城なのだ。
  「お?」
  喋りながら中程まで歩くと、小屋が在った。他の駅でも見掛けた事がある小屋だが、どんな物かは知らなかった。近付いた外壁には幅が狭い長方形の銀色のロッカーが設置されていた。
  「あぁ、うぅ・・・・・・」
  暫しロッカーを開けるかどうか迷ったが、思い切って開けてみる。房モップが一本と、塵取りが一つだった。
  「ショットガン・・・・・」
  少し落胆が混じった声で赤城が言う。バイオハザードみたく簡単に銃器が手に入るなど、所詮はフィクションの出来事である。
  ただモップの長さは赤城を鼓舞するには充分だった。薙刀を意識して構えると、不思議と頑張れそうな自分が居た。イナゴ擬きぐらいならば倒せるかもしれない。
  赤城は二、三回軽く素振りをし、小屋から人が出てくる可能性を考え、早々に立ち去る事にした。身を守るためとは言え、許可無くモップを借用するのは本来ならば咎められる行為だ。
  モップを片手に赤城は『えっさ、ほいさ』と呟きながら軽く駆けた。ホームの後半もエンカウントはしなかった。
  「うわぁ・・・・・・」
  ホーム末端に到達した赤城の眼前には、周りとは比べ物にならない高濃度の闇が広がっていた。ホームから漏れた光が隣駅への線路の存在を極僅かに照らし出すが、本当に続いているか疑わしく思えてしまう。
  「線路を歩けば・・・・・・」
  隣駅に行けるだろう。尤も、灯りを持たずに進める勇気を赤城は持ち合わせてはいない。乗り出しかけた身を引っ込め、闇に背を向けた。
  「あ」
  間抜けな言霊が出た。階段を見つけたのである。まだ魔の手は伸びていないと見える。
  「恐いなぁぁぁぁぁ・・・・・・!」
  再びモップを構えて踏み出そうとするが、やはり躊躇してしまう。だが昇るしかない。地下は此れで終わりなのである。
  「昇るのに・・・・・・飛び降りるとは、此れ如何に」
  己にしか意味が通じぬ下らない言霊を吐き、赤城はそそくさと階段を昇っていく。
  そうして昇りきると其所は、だだっ広い踊り場であった。ホームとは違う蛍光灯の光で白く染まり、そこそこの運動ならば出来そうな広さだ。奥には屋台の様な簡素な造りでフルーツからジュースを作る店が有るが、無人である。
  其の店の、此方から見て右手に新たな階段が口を開けていた。
  「ふむ」
  モップで階段を示し、先程のホームの時と同じ感じで駆けていく。少し息は切れたが、苦もなく階段前に到達できた。後は昇るだけである。
  赤城が踏み出して左足を一段目に置いた。
  「ギュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
  赤城はハッとして見上げた。階段の頂上から此方を完全に捉えた怪物が、赤城を喰らわんと跳んでくる。
  赤城の神経と両脚の筋肉は普段の数倍の反応速度を叩き出し、紙一重で右に飛び退いた。
  怪物は店に衝突して其の瓦礫に埋もれ、ゴソゴソしていた。其の隙に赤城は出来るだけ距離を取ろうとするが、今しがたの動作で右足の付け根を吊っていた。日頃のインドアが祟ってしまった結果だ。
  「ギュラ゛ァ!!!」
  残骸を払い除けて怪物が立ち上がった。音に驚いた赤城は思わず、怪物にモップを投げ付けた。
  「あっ!」
  投げた事を直ぐに後悔した。モップは乾いた音を立てて怪物に当たっただけで、自衛すら成立していない。此の行為は怪物を興奮させたばかりか、己の右肩を壊す結果となった。
  「ギュュュュュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
  怪物は怒り心頭で向かってきた。赤城は背を見せ逃げるも到底逃げ切れる筈は無く、赤城を間合いに入れた怪物は右側の一番目の腕を振り上げ、赤城目掛けて力の限りに振り下ろした。
  「―――う」
  死んだと思った。同時に背中を軽く押された気がした。そして『ドゴン』と鈍い音が響き、怪物の『ギュグァ・・・・・・!!!』という呻き声が赤城の耳に届いた。
  「・・・・・・?」
  恐る恐る振り返ると怪物は仰向けで藻掻いていて、万歳をして喜んでいる“ヌイグルミ”が宙に浮いていた。
  「・・・・・・は?」
  ヌイグルミの体は白かった。其れに気付いた赤城は急いでリュックを下ろした。
  ポッカリと穴が空いている。手を突っ込んで探すと、やはりヌイグルミだけが無くなっている。では眼前のヌイグルミが自らリュックを破り、怪物にカウンターを見舞ったという事なのだろうか。
  「守って・・・・・・!」
  赤城は魔女の言葉を思い出した。
  起こったであろう出来事に呆然とした。凡そ常識の範疇を越えている。
  其の内に万歳に満足したヌイグルミが、不意討ちで赤城のリュックを叩き落とした。ビビる赤城を余所にヌイグルミは、赤城を前にして自分で自分を抱き締める行為を繰り返す。
  最初こそ其の意味が解らなかった赤城であったが、先程の魔女の言葉を思い出した脳は、次に何をすべきかを導き出していた。
  「・・・・・・こう、なの?」
  赤城が右手でヌイグルミを握り締めた。するとヌイグルミは膨張して濃淡の灰色のマーブル模様をした、ソフトボール大の光球へと変容した。光球は掴まれていた手から吸収され、其れが光を放ちながら腕の内部を通って心臓に達した瞬間、赤城は光球の色を発する光に全身を包まれた。
  此の時、赤城の脳は不思議な光景を見ていた。自分を包んでいる光と同じ物で構成された人物が立っているのである。顔面には黄色に光るゴルフボール程の円形が三つ、三角形に配置されている。
  しかし其の人物の姿は直ぐに散らばって破片となった。すると全ての破片が真紅に染まり、また一つに集まって人の形を作った。顔面の眼は二つとなり、肉食獣の其れと同じ配置で翠に輝き、頭頂部には三角形の両耳が天を指している。そして、キツネ属の獣を思わせる細長い口吻が在った。
  「誰ぇ・・・・・・!?」
  赤城の問いに人物は自らの胸に右手を当てた後、赤城を指差して頷いた。
  「ギュゥゥゥゥゥ・・・・・・!」
  ヌイグルミにカウンターをやられたショックから立ち直った怪物が起き上がる。頭(かぶり)を少し振り、目の前の光へ仕掛けようとした時、突如として光は真紅の光へと変異した。
  再び出鼻を挫かれた怪物は動きを思わず止めてしまった。
  光の中で赤城は、己の内から溢れる“力”に因って姿が変わっていく。
  爪先と指先から同時に、黒いアンダースーツが靴や服を“上書き”しながら形成されていき、首までの全身を覆う。
  次に頭部、胸背、両肩、両前腕、両手、両膝、両下腿、両足に真紅を基調とした装甲が突如として現れ、装着された。
  最後は腰に於いて、中心に真紅で染められたテニスボールサイズの水晶玉の様な物が埋め込まれた、銀に輝くバックルを持つベルトが出現した。
  「ギュア゛ッ!?」
  遂に光が弾けて、赤城が再び怪物の前に現れると、怪物は明らかに赤城に対して驚いていた。
  何故なら赤城が赤城ではなく、狐の頭を持つ、真紅の鎧を纏った戦士へと変貌を遂げていたからである。

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【2013/02/21 20:37 】 | 戦神稲荷 | 有り難いご意見(0)
第二話 『嵐の前』

  「(アイツは魔女だ)」
  四つの長机が長方形に設置された一号館二階のゼミの教室で、赤城は頭の中を整理していた。
  日常離れした服装、理解が難しい言動、お礼のヌイグルミ、“止まっていた時間”。約二時間半前の出来事は何だったのか、整理と平行して考えている。
  まず服装や言動は『個性』という物によって決定されているが、此れは十人十色である。あの言動も、彼女を彼女たらしめている『個性』に依るものだと思えば良い。
  自分だって今着ているジャケットはF-22の様な制空迷彩であるし、ジャケットの下のTシャツは都市迷彩。ズボンも洗濯されていなければジーンズで妥協せず、デザート迷彩にする筈だった。
  そんな『個性』を持った人間が、彼女を『変わっている』と思うのは実に愚かだ。自分も彼女も、大きく分類すれば『同類』なのである。
  此処までは赤城でも処理が出来る範囲で済んだ。次の段階こそが幾度となく赤城の頭をフリーズさせ、脳細胞の死滅を早めている。
  “時間が止まっていた”とは、どういう事だ?
  確かに緊張はしていた。だが時間の経過を遅く感じる程ではなかった。と、思える様な気がする。甚だ脆い意思だが、それなりの根拠は二つ有る。
  一つはお礼を受け取って会話が終わった後、鐘がまだ鳴っていた事だ。あの鐘が奏でる旋律は十五秒くらいで終わるのだが、内容からして確実に十五秒以上話している。
  緊張に依る時間の経過の遅延とは主観であり、時間自体は常に客観である。だから己がどう感じていようが、時間は常に一定不変の速度で経つのだ。あの場合の鐘は、鳴り止んでいなければいけない。
  もう一つは会話が出来た事だ。彼女の声は耳打ちにしても小さすぎた。にも関わらず、二歩も下がっていながら会話は立派に(大目に見て)成立している。
  時間が止まれば物体の運動も止まるという推測は容易く、運動が止まれば付随する音とてしなくなり、無音の状態が出来上がる。無音ならばどんなに小さくとも聞こえる。だったら会話も出来る。
  此れらが“時間が止まっていた”とする一応の根拠である。論理が飛び々な感じは否めないが、己が繰り出せる論理はこんなものだ。寧ろ今日は調子が良い方である。
  此の様な脳内討議をへて、冒頭へと戻る。相手は黒ずくめに近い少女であったから、『魔女』と呼ぶのが妥当な線であろう。
  「(・・・・・・傍若無人で荒唐無稽な訴えを、腕利きの弁護団を擁して力任せに正論にした感じだな)」
  良く解らない例えで、赤城は自らを煙に巻いた。二時間も同じ事を考えて飽きていたのだ。
  やおら机に突っ伏すが、寝ない様に眼は開けている。眼前は薄暗くてピントが合っていないグレー、聴こえてくるのは周りの席の奴等の声。自分を除いて、今日来ているのは確か五人だったか。何時もより多い日である。
  「おぉふ」
  暫くして誰かが入室してきた。声に反応して赤城が其の方向に起きると、此のゼミの担当教諭が視界に入った。還暦を少し過ぎた感じの歳であり、白髪に恰幅の良い体を持ち、ワイシャツをスラックスにキッチリと納め、右手にはヨレヨレの薄緑の紙袋を提げている。
  「今日はぁ、多いな」
  奥の真ん中の席に着くなり教諭が言った。
  「おぅ、来てないのは誰だ?」
  「小林でぇす」
  赤城の向かい側の席の、容姿が“ダイスケはん”に激似の女子が報告する。
  「小林か、最近どうしたんだ?」
  「別に良いんじゃないすか?」
  「良かないよぉ、酷い事言うね?」
  「先生ぇ、今日は何すんの?」
  「ぅえ? ちょっと待ってくれぇ」
  教諭は半笑いで手元の表札サイズの出欠表の束を適当に掴み、自分の左斜め前の席の、眼鏡を掛けた真面目そうな生徒に渡した。
   出欠表は眼鏡から左に流れていき、緑の帽子を被った小肥り男を介し、ソイツから一つ空いた席を飛ばして赤城の元へと着いた。そして赤城からガタイ良い色黒男に再び流れ、其処より“ダイスケはん”に譲渡がなされ、彼女から中の中の下のギャルに分配され、最終的に皆に一枚ずつ引かれて教諭に還ってきた。
  「今日はな、卒業研究のテーマを決めて欲しいと思ってる」
  教諭は性格由来の緩慢とした動作で出欠表を片付け、終えると今日の内容を告げた。
  告げられたゼミの面々は不意を突かれた。出欠表の今日の日付の欄に、『十月十九日』と記入していた赤城も動きを止めた。
  「先生どうゆう事!?」
  色黒男が早口で聞いた。余程驚いたと見える。
  「期限は来年の1月の中旬までだぁ。取り敢えず今月は仮のテーマを決めるだけ。そっから後は進行状況の報告。だから、今季は早く帰れるぞ」
  「先生先生ッ、え? 何すんの?」
  「(さっき言ったじゃん)」
  ギャルの質問を赤城が脳内でツッコみ、聞かれた教諭は質問を無視して手帳に何かを書いている。厳密に言うと教諭は少々耳が遠く、返答を貰えない時が稀にある。さっきの事態は其れが起きたのだ。
  ギャルは“ダイスケはん”に同じ質問をし、答えを貰って落ち着いたようだ。
  「卒業研究は、三年生の必修だかんな。必ずやらなければならないよぉ。四年生には卒業論文というのがあるけど、此方は選択。つまり研究をやれば論文はやらなくてもいいわけ。A4の紙に研究は一万字、論文はぁ二万字」
  聞き終えた面々は各々理解に努めている。赤城も耳から取り入れた情報を必死で組み立て、記憶の箪笥に押し込んでいく。
  「決めたら出欠表に書いてくれ。テーマは別にゼミで学んだ事以外でもいいぞぉ」
  教諭が虚を突いた。
  「マジっすか!?」
  「おぅ。いいよ何でも」
  「やったね!」
  色黒男と“ダイスケはん”の二人は喜び、他の奴等も眼が見開かれていた。まさか教諭が、ゼミの存在を否定する様な発言をするとは思わない。
  「あの、例えば、『原子力の安全と今後』みたいなのでもいいんですか?」
  赤城は新たな情報の信憑性を確かめるため、珍しく教諭に質問をした。
  「そんな感じでも大丈夫ですか?」
  「大丈夫、大丈夫」
  微笑みながら教諭は答えた。赤城は『言ったな先生』と脳内で誇る。周囲も赤城の行動のお蔭で、ゼミが掲げるテーマから完全に解放され、一先ずは安心していた。誰も熱心に普段の講義を聞いてなどいないからだ。
  だが『自由でいい』と言われると、急に広大になった選択肢に呑まれるものである。眼前に展開される数多の扉に圧倒され、何れにも手を出せずに其の場に縫い付けられてしまう。『縛りが無い』のが一番の『縛り』である。
  「(どうしたものか・・・・・・)」
  赤城が目頭を押さえて思った。思い浮かんできたのは高校三年生の時、今回と同じ様な課題をしていた自分だ。
  あの時は『与野公園に棲息している生物を調べる』をテーマに掲げ、毎週日曜日の公園に数ヵ月間、足繁く通っていた。思えば自由研究でも危うい、稚拙な取り組みであった。
  今回はそうはいかない。大学生たる人間が自由研究をしてはならないのだ。さすがの赤城も考えを深くする。
  朝に読んだ新聞、視たニュース、聞いたゴシップ、キヨスクの雑誌、電車の中吊り、学校の掲示板。引っ掛かりそうな事柄を片っ端から引き出していく。
  だが悉く滑り落ちていってしまう。他には何が有る。記憶が鮮明な今日のが好ましい。一限の日本史、就活のガイダンス、其の後は―――

  魔女が。

「(!)」
  情景が勝手に再生される。
  憂いた顔の魔女が、此方を見つめて其の内に歩み寄り、自分はヌイグルミを差し出して魔女が微笑む。そして魔女からヌイグルミを賜り、鐘の音が聞こえて魔女は消え去った。
  「・・・・・・」
  赤城は目頭の手を額に当てた。熱くなっていて、頭全体が過熱している様だった。
  手を離し、目線を足元のリュックに落とす。リュックの中には今、握り飯を入れるウッドランド迷彩の布袋と、あの賜ったヌイグルミが少し潰されて入っているのだ。
  「何なんだ、あの人は・・・・・・」
  赤城は見ながら呟いた。人の顔を殆んど覚えられない自分が、鮮明に魔女の顔を浮かべている。従兄弟すら朧気だと言うのに、何故魔女に限ってこんなにも浮かべられるのか。
  おもむろに赤城は出欠表に『魔女』と書き記した。続けて『喪服』、『礼服』、『ヌイグルミ』、『鐘』と付けたし、暫し眺めて教諭に『先生』と声を掛けて提出した。
  教諭は出された物を手に取り、不思議そうな表情で見ている。予測をして心構えをしてはいたが、やはり相手の一声を待っている『間』というのは、心がキリキリと絞まって何故か喉が狭まり、心臓に飛び火して動悸が少し速くなる。
  些細な恐怖に駆られた赤城は「ぁ頭に浮かんだ事を羅列しただけなんですけど」と防御をする。喉を開く過程で躓いて僅かに声が掠れたが、直ぐに戻った。
  発した言葉に続く文言が出ない、だが下手に次を打って不利になりたくはない。あれこれと考えを巡らしていると、教諭が言った。
  「大丈夫かぃ?」
  「はい?」
  「此れらの断片を、次までに固められるかぃ?」
  「・・・・・・か、たまる、と思います」
  「うん?」
  「善処しますッ」
  「うん、解ったぁ」
  教諭はそう言って何故か笑顔になった。元々教諭は無邪気なトコロがあったが、今回の場合は赤城が“此の場しのぎ”とは言え発した『善処』という言葉に、純粋に嬉しくなったのだろう。
  当の赤城は言ってしまった言葉に囚われ、『善処』に向けて磨り減った脳でシミュレートをしていた。
  赤城の基本的な行動原理は『叱責される事への恐怖』である。
  何でやらなかった、何故聞かなかった、どうして尋ねなかった。
  其の様に叱責されるのを赤城は心底恐れる。
  だから赤城は赤城なりに、“先手”を打てる時は打ってきた。ハッキリ言った手前は実行し、何か行動する時は同様の者が居ないか尋ねる。
  例え周りが『叱責しない』と宣誓したとしても、臆病者の権化たる赤城は自身の心に住まう暗鬼に対し、此れからも“先手”を打ち続けていくのだ。
  「じゃあ御疲れさん」
  不意に教諭が放った。
  「・・・・・・それはどういう?」
  「君は今日は終わりだよ」
  「そう、ですか。ではまた来週に」
  「おぅ、頑張れよぉ」
  こういう時、何故か赤城は『撤退しなければ』という気持ちになる。
  赤城にとって家の外は概ねアウェーであり、銃弾林雨の戦地である。だから速やかに席に戻り、鉛筆と消しゴムをペンケースに仕舞い、其れを机上に出ていたプリントが詰まったクリアケースに入れ、立ち上がってケースとリュックを右手で併せて持ち、左手で椅子を戻し、足早に教室から出ていった。
  廊下に足を踏み入れ、教室の扉を閉める。すると幾分か気分は楽になる。少なくとも『第一線』ではない。
  扉の前でクリアケースをリュックに収め、確りと両腕を通して背負うと、赤城は右へと歩を向けた。十五メートル程直進し、コの字に配された階段を下る。そして二階とは逆方向に倍以上の距離を進んで、赤城は再び曇天の下に帰還した。
  ちらと腕時計を見ると、十五時三十五分だった。視線を足元の階段にやって降りながら、大きく溜め息を吐いた。今日は遭遇した出来事が刺激的過ぎて、何時もより八割くらい増量していた。
  ガッコウの外に出ると不意に強めの風が吹き抜けた。今はまだ涼しいが、何れ指の関節に五寸釘を打ち込まれる様な痛みを伴う冷たさになるのだろう。
  赤城は少しだけ思いを巡らし、ガッコウの最寄駅を目指して帰っていった。



   ―――お疲れ様。



  其の様に口が動いた。
  赤城の後方百数十メートルに建つ、チャペルの鐘を納めた塔。其処の天辺に厳かに突き刺さっている大きな十字架の横線の上に、魔女は不敬にも腰掛けていた。膝枕にはヌイグルミが座り、主共々寛いでいる。
  同時に相反して魔女の心は此れ迄に無い期待と、共に遊ぶ者を獲得した喜びで高揚していた。手を当てずとも、高鳴りを良く感じとれる。
  さらに今の魔女の眼には、妖しい輝きが灯っている。比喩ではなく、本当に光度を持った輝きを放っているのだ。
  其れは幼子の持つ無垢さを帯びてはいたが、刑執行人の様な冷たさが感じられた。ヌイグルミを持ち歩くには不釣り合いな眼力である。
  時を止めて、魔女は声が届く様にした。
  「さぁ、始めましょ」
  魔女はヌイグルミに話しかけると、其れを抱えてフワリと線の上に立った。尻の辺りを軽く払って身支度を整えると、右手を天に向けてフィンガースナップを形作る。
  「心行くままに饗宴を」
  魔女が時間を元に戻し、弾かれた指の破裂音が響く。刹那、足元から眼と同じ色の炎が急激に盛り、一気に魔女を飲み込んだ。
  魔女の全身が瞬く間に灰塵に帰していく。だが魔女は破顔一笑で聞こえない笑い声を上げ、遂に歓喜の頂点に達した。
  そして炎が唐突に弾け、粒子状に変異して霧散した後には、熱せられて昇る空気と、煤に汚された十字架だけが残された。
  嵐の幕が、とうとう開いた瞬間である。

【2012/06/07 20:33 】 | 戦神稲荷 | 有り難いご意見(0)
第一話 『愚民がチャペルで【前編】』

 「貴方達は、此れから就活を始めます」
 数メートル先のアドバイザーはそう言った。聖隣大学内に在るチャペルに於いて開かれている、就活ガイダンスの第一回目の冒頭での事だ。
 赤城 司はアドバイザーの話を最低限だけ聞く事にし、残りの容量を雑念に当てた。赤城の様な人間の耳にはアドバイザーの語る現実程ツライ物は無い。例えるなら、下ヨシ子が除霊の際に唱える経文だ。それならば赤城は現代社会に巣食う悪霊といった所である。
 赤城という男は常時ネガティブな奴だ。加えて社会活動に必要な物覚え、応用力、論理力、行動力、社交性、状況把握。挙げた此れ等が全て最低ラインに到達していない。詳しくは解らないが、遅くとも高三の夏には今の赤城は確立されていた。赤城がネガティブ以外で断言できる数少ない事柄だ。
 『他人と協調できなくて、一人では何もできない人間』とは赤城による自己分析だ。悲しいかな、此れは親も認めた事で、自分の事だけは客観的かつ正確に見れるようである。
 ただ裏が有れば表もまた然り。赤城にも一応、塵芥程のポジティブさが有った。レア素材が出るまで狩る、漫画を求めて方々の本屋を回る、何度同じ所で落ちてもクリアするまで諦めない。言わずもがなだが、自分の好きな事に限られる。
 その他諸々の細かい中身は追々明らかになっていくだろうとも、現時点の赤城は上記の特性を持つ人物だ。
 アドバイザーは話を続けている。
 「成績証明書は学生課で申請し、キャリアサポートセンターで受けとります。申請から発行までは数日掛かります。なので、しっかり日程を把握していてください」
  「(さようですかぁっと・・・・・・)」
 取り敢えず赤城は赤いボールペンでメモをした。少しはメモらないと周りから浮いてしまう。今居る状況に溶け込まないと、後で何を言われるか解らない。
 「(愚民がこんなのに出ても意味無くねぇ? まぁ出ないと後々面倒いしなぁ)」
 メモが終わるなり、赤城は脳内で愚痴る。
 言いたい事は口に出さずに頭で思う。下手に言って場の空気を悪くしたくないし、それ以前に自分の内面以外に於ける自分の意見は、何かしら間違っている事が此れまでの人生で多過ぎた。だから此処では口に出さない。無論、人の話を聞いている時に喋らないのは当然の事である。
 未だにアドバイザーは語り続けている。もっとも、大学の講義は九十分で一コマだ、簡単には経過しない。その上に現在地はチャペルときている。アドバイザーの話よりも、『チャペルに居る』という事が赤城をナーバスにさせる。
 聖隣大学はプロテスタント系のキリスト教をスクールモットーとしている。一年生からキリスト教関連の講義が必修と定められ、火曜日以降の一限後には今居るチャペルで『全学礼拝』の時間が設けられている。
 さらには『全学礼拝』で三枚以上、最寄りの教会の日曜日の礼拝で二枚以上の出席レポートを提出しなければならないという徹底ぶりだ。
 赤城は文章が苦手だ。専用のレポート用紙に書くワケだが、それなりに行が有るから堪える。しかし抜け道が無いワケでは無い。
 此処のキリスト教関連の講義を受け持っている先生方の三分の一くらいは、『メイス』とかいった横文字が付く事から洗礼を受けたと推測出来る。幸いにも赤城が巡り会ったのは其の人達だった。
 そこで『心』を“利用”する。洗礼を受けるのは深くキリスト教を信仰しているから、キリスト教は『隣人愛』や『ルカによる福音書』の第十章三十節あたりに見られる様に『慈愛』に満ちた宗教だから、属する人々は皆々『優しい』はず。だからレポートに対しては内容よりも『ちゃんと教会に行ってくれた』事に感心が向いている、故に、稚拙な文でも“無問題”だ。と、赤城は結論した。
 結果、それで呼び出される事も無く、単位を取得出来た。やはり先生達は優しい人々だったのだろう。
 「(お解りぃ?)」
 どうでもいい事だけに頭が回る男。それが赤城 司である。
 「では次のページを見てください」
 アドバイザーが促し、言われて手元のプリントをパラパラ捲る。詰まらない内容に読む気は起きない。メモの時から下を向いていたせいか、首が痛い。
 筋肉を解すために、改めて場内を“怪しまれない様に”見渡してみる。今居る空間は体育館より少し広いくらいだろうか、二階席はスタジアムのスタンド席の様な一列に十二席が設けられた物が五段ある。二階席を囲む形で嵌められた十数枚の大型の窓は、全てが聖書の中の場面を描いたステンドグラスである。威光というか、威圧感に似た物を赤城は感じている。それでも今日の二階席は船を漕いでいる輩が大勢居るのは、皆が強靭な心を持っているからだろうか。
 赤城が居る一階部分は木製の長椅子が四列置かれている。内側の二列は八人掛けタイプが縦に十六個ずつ、外側の二列は五人掛けタイプが内側の一番目から九番目を挟む配置である。二階と同じく、多くの船頭が熱心に船を操っている姿が見られるが、夢の海に生きる者の心は総じて逞しいらしい。
 其れに負けじと、アドバイザーは大変に熱心である。赤城は飛んでくる熱を往なしているが、それでも情熱は枯れる事無く、声となりて場内の者の耳にガンガン飛んでくる。
 アドバイザーは赤城から見て、壇上の左端に有る、大統領が演説の時に使う様な台から語り掛けている。壇上の奥の中央には大きな木製の椅子が在り、少し隙間を開けて両脇に一回り小さい木製の椅子が三つ連なっている。そして中央の椅子の頭上に、厳かな十字架が静かに君臨していた。『ラテン十字』という、下へ伸びる線が長い、お馴染みのタイプだ。
 善良な子羊たるアドバイザーにとっては此の上無い味方だろうが、赤城には甚だ面倒臭い『印』にしか過ぎない。
 自分は死んだら経文を読まれて葬られるだろうから、十字の『じ』の字も出ないし、イエスだって赤城を訪ねたりはしない。赤城にしても、信仰もしていない神が来られても対応に困るだけである。
 では何故此の大学に入ったのかと言うと、取り敢えず通っていた予備校の講師に、『お前は此処の大学の入試と相性が良いから受けてみろ』と言われたからだ。キリスト教をスクールモットーにしているなんて事は、愚かにも入学式の途中で気付いたのだ。
 元から宗教全般に微塵も肩入れはしていなかった。講義の関係で教会へ通ってレポートを提出する事を経験すると、キリスト教への『反逆心』が芽生えた。当初はキリスト教関連の講義に於いて、菩提寺から貰った学業成就の鉛筆を使っていた。『仏教の心でキリスト教の教えを賜っているぞ』という意味である。
 それを二年もすると、次の段階へと進みたくなる。そして到達したのは、古来より日本に在って日本人に密接している国産宗教『神道』であった。今でこそ仏教との習合によって境が曖昧に為っているものの、日本生まれ日本育ちは揺るがない。
 切っ掛けはレポートのため、日曜の礼拝に向かう道すがらだった。区役所の隣に正にひっそりと建ち、明らかに周りと違う雰囲気を放つ其れは、教会へ向かおうとしていた者にとっては偉く新鮮に映った。其れなんてモノは物心が付いた時から見ているはずで、大した興味も持っていなかったのに、今になって物凄く“欲しく”なった。
 其れは、『正一位倉屋敷稲荷神社』という稲荷神社だった。
 その出来事以来、赤城は神道、特に『稲荷』を嗜好する様になった。稲荷はそこかしこに在る。実家の直ぐ近くに『豊川稲荷』という小さな小さな稲荷神社を見つけたのは、個人的に大きな功績である。赤城の反逆心は、此れを以て落ち着いた。
 「質問はありますか? ・・・・・・では此れで終了します。長時間、お疲れ様でした」
 礼儀としての拍手を会場の皆より一瞬遅れて、赤城も拍手した。九十分が終わった事に、ようやく昼飯が喰える事に、何より此の『愚民』に対しても時間を割いてくれた事に労いの意を表して、拍手を送った。
 出席していた数人の先生方が小さな連絡事項を述べ、本当に解散となった。赤城は赤ボールペンをペンケースにしまい、ペンケースを足元のリュックに放り込み、上部の取手を掴んで背負わずに席を立った。
 のろのろと進む列に甘んじ、足踏みに近い感じで歩いていく。出入り口の扉を潜ると小さなロビーである。二階からの学生も合流するため直ぐに一杯になり、速度に変化が無い。ただ『ちょっとスイマセン』の言霊を唱えれば、人一人がカニ歩きで通れるくらいの隙間が生まれ、其処を足早に抜けていき、ようやく赤城は外へ出れた。
 空は白くて明るい曇天である。日光が良く通るが風通しが悪い、微風の空である。
 目の前の四段しかない幅広い階段からレンガの道をほんの少し歩くと、道は石とコンクリートの中間の様な材質に変わる。それを挟む形で二組のベンチが配置されており、此れはコンクリートで構成されている。赤城は手近なベンチに座り、自分の隣にリュックを降ろした。周りの駄弁りが喧騒と化していて騒がしい。
 時刻は腕時計を見ると十二時半で、昼休みである。今日は四限までだが三限が無い。昼休みが一時間、講義は一コマ九十分だから、総計二時間半もの暇を持て余すが、大学にはそれなりの図書館が在るので大して苦ではない。図書館は騒いだり、飲食をしなければ何をしても良いと赤城は思っている。ケータイを操作しようが寝ようが平気であった。
 目的地を定め、席を立とうと重心を前に移動させようとする。其処に目掛けて、目の前に黒い物体が降ってきた。
 「おぶっ!?」
 急に視界に物体が現れたおかげで反射的に飛び退いてしまい、ベンチの後ろに背中から落ちてしまった。オーバーリアクションの発現はみっともない。
  「おぉあっ・・・・・・」
 落ちた所は芝生が植えられている面だった。とは言え、インドア生活者の肉体には強烈な衝撃である事は変わりない。極近い距離から笑い声が聞こえると、両の内腿から汗が出る。緊張した時に出る物だ。
 赤城はなるべく周りの者達を見ない様にして起き上がり、改めて降ってきた物をベンチを挟んで恐る恐る見た。
 ヌイグルミであった。大きさは三十センチくらいのテディベア系スタイルで、リレーのバトンくらいの太さの尻尾が生えている。頭部のレイアウトは両耳がピンと天を指し、丸い顔の両頬からはヒゲが放射状に伸び、両眼の瞳孔が縦に細くて妙にリアルだ。察するに『猫』なのだろう。赤城は率直な感想を述べる。
 「・・・・・・化け猫だな」
 眼を細めると余計に其れらしく見える。その内に動き出しそうな雰囲気も多少有る。
 慣れてきた赤城はベンチを跨ぎ、念のためにじっくりと注視し、やがてヌイグルミを手に取った。手触りは良い。軽さからして綿なのだろう、オーソドックスな中身である。
 「・・・・・・何ぞコレ?」
 赤城は手に取った事を後悔し始めている。対処の仕方が解らない物に軽率に手を出してしまい、置いて逃げるワケにもいかず、誰に届ければ良いのか見当が付かない。また両の内腿から汗が出てくる。
 其の次には重厚な音が頭に落ちてきた。チャペルの鐘が鳴った、つまり昼休みになったのだ。普段なら学内の掲示板を見ながら握り飯を頬張っていたろうに、解らぬ物に手を出して此のザマである。どうしてくれよう、またトラウマが一つ増えてしまった。
 そう思った次だった。
 「返して」
 反射的に赤城は右を向いた。蚊の鳴く様な至極小さくて透き通る声だったが、明瞭に聞こえた。
 眼前にスレンダーな女子が立っている。歳は十七、八といったところだ。黒地の生地にエングレーブ風の模様が金色で全体に描かれた長袖のワンピースに、黒いベルト、黒いタイツ、そして黒いメリージェーン・パンプスという装いで、礼服とも喪服とも言えるコーディネートである。曇天の下でも艶やかに光る黒髪は、恐らく背中の中程まであるのだろう。肌は出不精の赤城の白さとは違う、そうせざるを得ない深窓の令嬢の其れだ、上品さが違う。顔立ちに関しては、赤城のボキャブラリィでは『可憐』とか『上玉』としか言い様が無い。只、実際に其れらの言葉がピッタリな造りである。今が憂いの表情でなければ、もっと良いだろう。そして、両眼の虹彩がショッキング・ピンクである。カラーコンタクトでも見た事が無い。
 「返して」
 変わらない声量で女子が言う。言われた赤城は女子を眼にしてから文字通りに停止していたのだが、一歩近付かれた事で脊髄反射でヌイグルミを差し出した。
 片手で出されたヌイグルミを、女子は両手で受け取った。丹念に傷が無いか調べ、やがて満面の笑みで「ありがとう」と言った。其れでも相変わらずの声量という事は、此れ以上は出せないのだろう。
 女子がヌイグルミに視線を落とした隙に赤城は二歩下がった。近付かれた分のマイナスと、話しやすい距離へのプラスである。本当は去りたかったのだが、其れが良いのかどうかが判断できず、妥協して此の方法をとった。苦肉とも言う。
 「ねぇ」
 「はいッ?」
 距離が功をそうして幾分か楽だ。
 「あなた、不思議な人ね」
 「ふし・・・・・・ぎ?」
 「心に大きな“がらんどう”。目指す道を見ようとも求めようともしない。希望も情熱も活力すら持たないのに、与えられた生を消費出来ているなんて本当に、不思議な人」
 思い当たる節は多々有るが、此の状況では考えられない。初対面で其処まで見抜く眼力は特筆に値するが、初対面かつ笑顔で言う事ではないだろう。評価とも嘲笑とも取れる発言で、赤城の顔は多少引き吊った。
 女子は続ける。
 「私ね、此れから遊ぶの」
 「遊ぶ?」
 「此処はとても面白そうなの。『今度こそ満足出来る』って思うとね、すごくゾクゾクしちゃうの。此の世界に出逢えた事を、貴方の神に感謝します」
 女子は胸の前で十字を切った。『あなたの神』と言われた赤城は口には出さず、脳内で聞こえない反論をする。
 「あなたも遊ぶ?」
 輝く瞳で女子は赤城に尋ねる。
 「遊ば、ないです。はい」
 少しの間を置いて、滑舌が悪くならない様に、ゆっくりとハッキリ言う。初対面だから顕著である。
 「遊ばない?」
 「え、いや、厳密に言うと、遊べないです」
 「遊べない?」
 「講義があるんで・・・・・・」
 語尾がモゴモゴして本人にすら聞き取れない。女子は不思議そうな顔で赤城を見つめ、赤城は眼を見れずに額や顎に視線をやっている。
 「遊びたくないの?」
 女子が問う。
 「あなたは遊びが嫌いなの?」
 「・・・・・・遊べるものなら、遊びたいです」
 溜め息をついて、赤城は本音を言った。心が何時より暗くなる。
 「じゃあ、時が来たら遊びましょ。終わるまで待ってるから」
 女子の顔に笑みが戻り、提案する。赤城が返答に困っているのを尻目に、女子は右手を後ろに回し、赤城の前に差し出した時には、十五センチくらいの白いヌイグルミを持っていた。先程、赤城が渡したヌイグルミの、色違いのサイズ違いである。
 「拾ってくれたお礼。もう複写したからオリジナルは要らないの。遊ぶ時に“握り締めて”ね、其れまでは守ってくれるから」
 微笑みながら解らぬ事を言う女子。返答に困っていた時点で思考がドロドロになっていた赤城は無意識に任せ、白いお礼を両手で受け取った。ヌイグルミの眼はやっぱり赤く、白い体に非常にマッチしている。白と赤、黒と赤、赤城は此の組み合わせが好きだ。
 眼に見入っていた赤城は、己の鼓膜が捉えた突然の大音量に酷く驚いた。凶悪な宇宙生物に狙われているクルーよろしく、周囲を慌ただしく見回すと、ガイダンスを終えた学生が大勢居た。チャペルからも人が出てきている。
 驚いた衝撃で思考が動き出す。同時に赤城は唐突に、“今まで時間が止まっていた”事に気が付いた。脈拍が上昇して喉がみるみる渇き、パンクしそうな頭で女子の方を向くと、女子は何処にも居なかった。
 言葉が出ずに、喉から変な音が出た。
 鐘はまだ鳴っている。

【2011/07/31 20:35 】 | 戦神稲荷 | 有り難いご意見(0)
プロローグ

  文字通りに襤褸襤褸だった。
  鎧は至る所が罅割れて欠落し、あちこちの負傷した箇所からは出血が止まらずに赤黒くなっている。右手で握り締めた業物の刃も柄も、三分の二以上が折れて使い物にならず、蓄積したダメージは既に許容量を遥かに越えていた。
  両の奥歯を出来る限りに喰いしばる。ふらつく頭でどうにか前を見れば、相手である女子は場違いにも微笑んでいる。
  其の毳毳しい、ショッキング・ピンクの虹彩を持つ眼は、黒のペンキをぶちまけた夜の中で妖しく光り、人間とは一線を画す底の深さを漂わせていた。
   彼女の後ろには厳かなチャペルが控えている。皆既月蝕の赤い月に照らされて聳える其れは、幾度も通って慣れた筈の建築物とは到底思えない程に恐ろしかった。
  「ほら、もっと遊びましょ?」
  瞬間に静まる空間に、彼女が微笑んだままに放った無茶な事は、とても良く通った。襤褸襤褸にしたのは自分のくせに、覚えが無いとでも言うのだろうか。
  届くのならば、其の顔に鉄拳を見舞いたかった。
  「・・・・・・やろうぜ」
  自棄から出た言葉だった。有言実行で歩み寄って殴ろうとしたが、脚からの応答は無く、歩行は無理だった。
  其れを察したのか、彼女が此方に歩いてきた。石とコンクリートの中間の様な材質の道に靴音を響かせ、悠然とした態度で向かってくる。靴音が止めば、トドメを刺されるのだろう。
  最早勝機なんて微塵も無いのは解っていた。だから負ける前に、奴に最後の一撃を浴びせてから負けようと考えた。
  朽ちた刀身で両断なんて高望みはしない、せめて額を割れれば其れで満足だ。殺す事が出来ないのならば、せめて永く残る傷を刻めばいい。
  顔は女の命の一つだ、傷が付けば簡単には嫁に行けまい。精々惨たらしい痕を受けて“行けず後家”になってしまえ。
  今一度、奥歯を喰いしばって活を絞り出す。重たい右腕が軋みながら徐々に上がり、体の各部が連動して振り下ろす構えになっていく。
  損傷が激しい左脇腹から血が余計に滲み、右手が小刻みに震えてカチカチと業物が鳴っている。気温による寒さ、死ぬ事への脅え、勝てない悔しさ、女の命を汚す興奮。ゴチャゴチャと全てが有って、故に全体が何なのかが見えてこない。或る意味、『無』というのは此の事を言うのかもしれない。
  刀身の先端が空を向いた。
  「今まで一番、勇壮な姿」
  靴音を止めて彼女が言った。止めたが彼女は手を出さず、此方に丁度良い位地で佇んでいる。敢えて足掻きを受けてくれる様だ。
  ナメられている。
  普段は気にも留めない感情に、今は大いに反応して怒りが生成されていく。
  相手から贈られた活のブースター、存分に使わせて貰うとしよう。
  「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
  有らん限りに振り下ろす。刃が頭蓋骨を捉え、抉った感触が右手に伝わった。
  さしもの彼女も、道を背に空を仰ぐだろう。そのつもりでやったのだから、当然である。
  此方は振り切った勢いで、体が彼女の方へ倒れていく。留まる気力も、踏ん張る脚力も何もかもが無く、どうにもならない。
  終わったのだ。出会った日から、今の今まで続いた思わぬ体験の日々。負けて終わりでも、奴に一矢報いたのだから良しとすればいい。フェードアウトしていく意識だったが、充足感を確かに感じていた。


  ―――うふふ。


  ガクンと、体が斜めのまま急停止した。衝撃で業物が手元から離れて地に落ちる。脚はだらんと『くの字』に曲がり、体の角度を鑑みても決して自立出来る姿勢ではない。
  次第に帰ってくる自意識と感覚。自分の首には相手の肩が添えられ、両上腕は両手に掴まれている。此の状況は相手に寄っ掛かり、相手が自分を支えてくれている。
  緩やかに体が相手から離される。両腕が伸びきった所で、相手の顔が見えた。数秒前と何ら変わらない、傷一つ無い彼女の微笑みだった。
  “やっぱり何とも無い”
  「えぇ・・・・・・」
  軽く両腕が曲げられたのも束の間、優しく突き放された。後の事は、ハイスピード・カメラの様な映像だった。
   彼女が冷笑したかと思うと、眼と同じ色の揺らめく物を何処からか両手に纏った。突き放したままの形の両手の空間にバスケットボール程の毳毳しい色の光球が生まれ、瞬の間を置いて其れはブッ放された。
  光球は此方の胸に直撃し、鎧から真紅の火花が盛大に散った。昇ってきた階段の上を、凄まじい勢いで吹っ飛んでいく我が身の前面は、数多の筋肉と器官がブチ切られ、骨々は見事に粉砕され、血と其の他の体液でグチャグチャだ。
   光球は色を保ったままに数多の粒子となって飛散し、素肌から此方の体内に取り込まれながら体其の物は階段下に停めていたバイクに背中から激突し、それなりの距離を共にスリップした。
   勢いが無くなると、横倒しのバイクを枕にした形になった。鎧は解け、纏う前に着ていた私服に戻っている。
  ジャケットの下のロングTシャツが瞬く間に血に染まっていく。今度こそ本当に終わる、負けるよりも悲愴な『戦死』という形で終わっていく。
  唐突に脳裏が可笑しくなった。深夜だと言うのに、視界は曇天の昼間なのである。周りを若い男女達が行き交い、たった今過ぎた目の前の階段を昇っていく。
  其の中に見慣れた姿を見つけた。覇気の無い顔、隙だらけの猫背、背負っているプレイステーションのロゴが入ったリュック、“独創的”なコーディネートの服装。
  あれは数ヵ月前の自分だ。ならば此れは走馬灯の始まりだ。死にかけの意識は走馬灯の自分と一体化し、行動をなぞり始める。
  そうして時を遡り、全ての始まりとなった十月十九日の二限目に、赤城 司は戻っていった。
  

【2011/05/23 20:40 】 | 戦神稲荷 | 有り難いご意見(0)
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